侵入
そんなこんなで俺は今、砦の中にいます。
砦に入った方法は簡単で態々細い道を歩かずに『ウィング』『ステルス』のステルス戦闘機コンボで砦の屋上から侵入。
音を立てずに内部に入り込んでからマップを開く。
気配察知能力のお蔭でマップに多数の人のマーカーが記されている。
だがこのマーカーでも異世界人は区別が出来ず一人ひとり俺の目視で調べなければならない。
何故俺が今、某蛇のような事をしているのかというと、今より10分前に遡る。
「作戦を行う前に異世界人の『狙撃姫』を確認したいだと?」
「はい。相手がこちらの兵を即死させずにいるのはこちらの消耗を狙うか、または甘え…殺したくないというのがあると思います」
「確かにな…あの腕前で誰一人頭や胴を撃たれていないというのはおかしな話だ」
「ええ。狙いやすい胴を狙わないということはその可能性は十分にあり得ます。私も調べようと思いましたが『隠れ蓑』の忍術を使っても発見されました」
「俺には感知が不可能な『ステルス』と言うスキルがあります。『ウィング』の魔法を使えば空から侵入も容易です」
「確かにそれならば…」
スキルではなくて『設定』の一つとは言いませんがね。
俺の提案に王子とジロウも頷いてくれるが、俺の婚約者達は渋い顔している。
「確かにそうだが…マサキ、危険すぎないか?」
「ステルスっていうのが凄いのは認めるけど…余りにも危険度が高いわよ。捕まったらどうするの?」
二人の心配ももっともだろう。二人にも『無敵』の事は内緒にしてある。
ジロウに解っているか怪しい限りだ。まさかスキルではなく『設定』として存在する常識外なモノだからな。
「犠牲は少ない方がいい。勿論俺も犠牲になるつもりはないし、もし『狙撃姫』が無理やりされてるとしたら同郷の者として俺は助けてやりたい」
俺の説得に渋々二人は頷いてくれて、まともに歩けるほどになると軽く準備運動をしてから作戦本部の中で空を飛び、『ステルス』で姿を消した。
「おお…本当に消えた!ジロウ、確かお前は気配を察知できるのであったが今のマサキはどうだ?」
「目の前にいたのに完全に気配が消えましたね…これならばあるいは…撃たれてもマサキ殿なら大丈夫ですし行けるでしょう」
二人にステルスの効果を見せつけてから俺は空を飛び、砦の中に入った。
そして今は砦の中を音を立てずに『ステルス』『無敵』『ウィング』を使い調べている。
砦の中は防衛しやすく扉が多かったが窓は殆どが空いていた。
砦は高所に配置されてる事もあって上から撃つことは出来ても下からは届かないほどの高さだ。
それでも一部の窓は閉じられており、そこには多人数が並んでるマーカーがあった。
恐らくそこは休憩室で兵士が寝ているのだろうな。
深夜に差し掛かる前に俺は一つの部屋の前を通りがかるとガチャンと音を立てて兵士が数人出てきた。
俺はぶつからないように天井に張り付きながらその兵士の後を空から追いながら話を聞いていた。
「全く…あの小娘にも困ったもんだぜ。さっさと撃ち殺せばいいものを」
「しょうがねぇだろ。あれでもまだガキだ。腕前は化け物だがな」
「だがスタイルはいいよなぁ…一度あれをたっぷりと味わってみたいぜ…」
「止めとけ止めとけ。それやった馬鹿が首を斬られて死んだのお前も知らないわけねぇだろ」
「だよなぁ。ま、言う事聞かせられるからいいだろ。だが俺は『農家』の方も捨てがたい…」
「あ、それは俺も思った。いいよなぁあれ…」
「叱られたい…」
「鞭でぺしぺししてもらいたい…」
「姉妹揃って姉妹丼とか夢だな」
「ああ。アイツらが用済みになりゃ俺達にもな…」
何か変なのが居た気がするがスルーしておこう。
兵士達が別の休憩室に入っていくのを追わずに俺は石造りの廊下で空に漂いながら今聞いた会話をまとめた。
(なるほどな。狙撃姫は農家を人質に取られてやらされてるのか。それならば農家を何とかすれば狙撃姫も説得できるか…?先に農家を当たってみるか)
スタイルが良い姉妹というからには二人とも女だな。
情報がこれぐらいしかないが砦に女なんて数は少ないだろう。
根気よく探せば見つかるはず。
マップを開き、どのあたりにいるのか当たりを付けよう。
女である事から個室に一人だろうな。または少数。
それで農家は人質なら部屋の前に見張りがいるのは当然と。
その条件を満たす部屋を一つ見つけた。砦の裏側の一室だ。
俺は出窓から空を飛び、ステルスのまま目的の場所まで向かうと兵士が2人見張りをしていた。
(警備が二人って事はここが当たりだな。さってと…やるか)
俺はステルスのまま兵士の裏に回り『手加減攻撃』『スタンボルト』『無音撃』のサイレントコンボを打ち付け、音もなく兵士が一人崩れ落ちた。
「ん、どうし…お前いつのま」
騒がれる前に同じコンボで黙らせる。二人とも運よく麻痺が発動してくれたので騒ぐことも動くことも出来ないで気絶している。
攻撃したからにはステルスは解除されており、二人をロープで縛って猿轡を掛けてから転がしてから俺は『農家』と思われる女性がいる部屋を開けた。
部屋はなんというか異様だった。
ビーカーとかも多く俺が想像していた農家とはかけ離れていた。
だが植木鉢は多く、それらは全て俺が知っている野菜や果物…サトウキビまである。
「凄いなこれは…」
思わず俺が言葉を漏らしてしまえば奥に居た人物がこちらにやってきた。
「あら〜、お客さんですか?いらっしゃい。ん〜っと…帝国の兵士さんではないようですが…泥棒さん?」
人質にされてるとは思えない程のんびりとおっとりとした女性が声を掛けてきた。
手には軍手、足にはゴムでできた長靴。装備だけ見たら農家だな。
「あ〜…泥棒と言えば泥棒かも知れない。何といえばいいか、アンタが農家でいいのか?で、俺はあんたを攫いに来た泥棒?」
自分でも疑問にもつがこんな所にいるのは兵士か泥棒くらいしかいないな。
某3世を見習ってみたがいざ言ってみると恥ずかしいものがある。
「職業は農家なら私ですねぇ。あらあら、ナンパされちゃった。どうしようかしら」
こんな時でもおっとりとしている。スタイルは兵士が言っていた通り良いな。
胸が大きい。アデルより大きいのかもしれない。
邪念が入ったが手早く動こう。ばれないに越したことはない。
「それでだな。あんたの姉妹が無理強いされて人を撃つ事をさせられているのは知っているか?」
「はい。それは勿論。私が人質になったのもあるけど、妹は責任を感じてるのでしょうね」
「責任?」
「ええ。そうですね〜…あの子が暗い怖いのに巻き込まれる時に私も思わず手を掴んじゃって…そうしたらこの世界でした。困りましたね。見たいテレビもあったのに」
すげぇマイペースな人だが大体事情が分かった。
つまりこの人は召喚されようとした妹さんの手を掴み、同時に召喚されたという事だ。
そして妹はやはりこの人を人質にされて仕方なく撃っている。
「テレビはどうしてやることも出来ないが助けてやることは出来る。一緒に脱出するぞ。勿論あんたの妹もつれてだ」
「そうしてもらいたいのはやまやまですが〜…この首輪が邪魔でして…もし帝国さんに逆らったらキュってしまっちゃうようです」
「なら外そうか。ちょっとじっとしててくれ」
「はい。目もつぶりますか〜?」
「それはしなくていい」
マイペース過ぎる!こりゃ狙撃姫も苦労してるだろうな。
俺はアイテムからおなじみの盗賊王の針金を取り出して慣れた手つきで解除する。
「あら〜本当に外れましたね。本当にありがとうございます。えっと〜」
「マサキだ。マサキ・トウドウ。次は妹さんだな。場所は知ってるか?」
「マサキさんですね〜。私は如月・春香と言います。妹は最上階ですよ。頑張って見つからないようにいきましょ〜」
最上階かよ!一度通ったじゃないか…。
「それじゃ行くか…って何をしてる?」
「ここで研究してた作物の種とか毒草を回収ですね〜…あの子を無理強いさせた人達にたっぷりとお仕置きしないと〜うふふ」
常時笑顔なせいか余計に怖いぞ!
「そ…そうか。じゃあ手を繋いでくれ」
「はい〜準備万端です。エスコートお願いしますね〜」
「ご期待に沿えるよう頑張ろう」
俺は春香の手を取って『ステルス』『ウィング』で空を飛ぶ。
(あら〜お空を飛んでる!いいですね〜これ)
(のんびりしている時間は無いから急ぐぞ)
適当に転がしているだけなので見張りの奴が来たら春香を連れ出した事が発覚してしまう。時間との勝負だ。