召喚、牢獄へ。
「無事――――だ――。能力は―――の――?」
「筋力―――下――ね。魔―――の―。平―――下で――難―結果―――う」
朦朧とした意識の中、何か聞こえる……先輩の声……じゃないな。
偉そうな爺の声だし。
無事……? こんな状態で無事も何もねぇよ。というか。地面が固くて冷たい。
筋力?太らない為に運動してるぞ。
くそっ…まだ身体が動かねぇ…。視界もぼんやりしたまま、地面が灰色くらいで辺りが薄暗いという事しか解らない。
「ふん、―――大―――ら見るに期待が――――外れだな。―――と奴隷用の首輪を―――従属させろ」
「はっ!」
期待外れ? 何のこと……って奴隷用の首輪!? このご時世に奴隷とか、何十年前だよ!
そんなプレイとしても死んでも嫌だ!
フードの奴っ……こっちくんなっ! っ……身体がまだ動かないっ…! 動けっ……動けっ!!
足掻こうとしたが、身体が動かず、首輪をつけられようとした…が、そこで異変が起きた。
何と首輪が弾け、消し飛んだのだ。
「なっ!?」
フードの奴と爺っぽい奴が驚いた声を上げてる。少しだけ視界も戻ってきた、爺はファンタジーで見たことあるような豪華な赤マントに金色の王冠、先端に宝石がついた錫杖を持っていた。
「これはどういう事だ?」
「不良品だったかもしれません。今すぐ予備を持ってまいります!」
段々聴覚も戻ってきた。なんだか凄く慌ててるな。これで体が動けば……ダメだ。動かない……。
あたりを見回してみると周囲は石で囲まれて石室といえばいいのか。四隅にある蝋燭しか光源が見当たらず、今の時間が昼なのか夜なのかもわからない。
そうこうしている間にフードの奴が新しい首輪を持ってきた。新しい首輪を俺に付けようとしたが…新しい首輪も消し飛び、ボロボロに崩れ落ちた。
「従属できぬとはどういう事だ!?」
「原因は解りませぬが……どうやら何かしら異能力を持っているとしか……」
「平均的な能力の原因は異能力か……しかし従属できぬとしては、今のままでは使えぬな。力が分からない以上殺すのも勿体ない。牢に放り込んでおけ」
「ハッ!」
聴覚が戻って来たら、とんでもない事いってやがる。異能力って漫画やラノベじゃないんだぞ。しかも、殺すとか物騒な事いってるが、今はまだって事は命はあるみたいだが…罪も犯してないのに牢屋とかふざけんな!
強引に起こされ、まだ声も出せず身動きも出来ないが、爺を見ていると不機嫌そうにしていた爺が、手に持っていた杖で俺の頭を殴ってきた。
「っ!」
「……一週間だ。もし一週間以内に従属する術を見つけられなければこれは処分する。さっさとこの屑を牢屋に連れて行け!!」
幼い頃に親に殴られた以来の衝撃が頭に響く。いってぇ……この痛みが夢じゃない事を示す。
当たり所が悪かったのか、再度俺は意識を失ってしまった。
次に目を覚ますと、手錠の類もダメだったようで手足は縛られていないが薄暗い部屋だ。目の前に鉄格子が見える。本格的に牢屋だった。
これが映画やゲームの中ならワクワクするところなんだが、俺は今はそれ所じゃない。晩飯のラーメンを食べに行くところだったのにどうしてこうなった……。
どうやら意識を失っている間に身体は動かせるようになったみたいだな。
「いてて……。あの爺、思いっきり殴りやがって……」
頭を押さえながら、出来たたんこぶを擦りつつ立ち上がって、辺りを見渡す。周囲がかび臭い石に囲まれザ・牢屋という感じだ。
試しに、どこか触れたら崩れないかなと淡い期待しつつも触るが、壁も鉄格子もびくともしない。さっきの首輪とは違い、こういうのはダメなようだ。
「あの爺は異能力とか言ってたな……。こういう力じゃないみたいだ、がどういう事だ?」
手を見てるが普通の手だ。真っ赤に光ったり何も起きない普通の男の手。
今度は、唯一外と繋がってる小さな格子窓から外を覗いてみる。鉄格子が外れないかなと、期待するがダメだった。
そこで見た光景に俺は絶句した。
そこから見えた光景は俺がよく見慣れていたビル街とは違い、まるで中世ヨーロッパ。
映画のような光景が広がり、空には大きな鷲のような化け物……グリフォンというのだろうか。それが塔の上に降りて、小屋の中に入っていく。
遠くに見えるのは海だろうか。大きな船が何隻も見える。確かアレはシヴ〇ーでみたフリゲート艦……何隻もあると圧巻だな。
そこから離れた所には商業船かな。見た目が海賊っぽいのまでいるぞ、おい。
そこで気づいた。何でこんなに目が良くなってるのかと目元に手を当てるとメガネが無い、さっき転がってた場所に落ちてたようだ。チタン製のメガネだから壊れていないようだ
「目が良く見えるようになったのは好都合だが……ここからどうするか。一週間……これが期限だな。なんとかする術を見つけないと処分とやらをされる……恐らく殺されるだろうな。まずはここが何処なのかわかればいいんだが……」
堅い床に胡坐をかきながら目を閉じて考える。すると目の前に何か見慣れたウィンドゥが出てきた。
これはいつも仕事で使ってたGMの管理画面!?
目を開けた俺の目の前には、管理画面が出てきており、そこに指を当てると色々な項目が出てくる。
「マップ……装備……スキル……魔法……アイテム……管理画面……あった。無敵……ステルス……」
普段、遊びながらバグの調査をする用のキャラデータアカウントとGMアカウント限定の設定が出てきた。今は《全状態異常無効》という項目にはチェックマークが付けられていた。
無敵とステルスには付いていない。
「いつもは装備で十分だから付けてなかったんだよな……で、さっきの首輪は状態異常……多分、従属か束縛あたりか。手錠や足かせが付いてないのもその辺りの関係で弾かれたと見るべきだな」
これは地獄かと思いきや色々逆転の目が見えた。GMには一般のPCとは違い大きく特徴がある。
まずはスキル。これに関しては全てのスキルがセットすることが出来る。枠は10個まで。パッシブスキルやアクティブスキルを付ければ恐らく使えるだろう。多分。
次に魔法だ。これもまた全部が使えるようになってるが……今はダメだな。全て赤字。MPが足りない訳じゃないみたいだ。初期の段階で覚えられる魔法が使えないのはおかしいからな。
なら考えられるのが、この牢屋が魔法禁止エリアになってる事か。転送の魔法も使えない。魔法を使うという憧れはここを出てからにしよう。
次に注目したのが装備だ。普段のプレイで稼いだ装備やアイテムが残っていたのが助かる。アイテムの欄からミスリルソードを取り出そうと思うと……いきなり飛び出てきた。
それを慌ててキャッチする。あっぶねぇ……! 音を立てたら警備に気づかれる。
冷や汗をかきながら手に取ったミスリルソード+2を眺める。家に模造刀があるが、本物のソードは凄いな……。質感が全然違う。
試しに振ってみるが、パッシブスキルで近接能力特大にチェックを入れておいたから簡単に振れた。
普段なら模造刀でもそう振れない。爽快だ。牢屋の中でなければ、もっと爽快なんだろうな。
ミスリルソードを仕舞うように念じてみると、あっさりと消えた。自分の所持品だからだろうか。
試し今度はさっき落としていたメガネを念じる。消えた。アイテムボックスの中に入っているようだ。
チタン合金製のメガネ:強度・軽さ・耐食性・耐熱性に優れたメガネ。どのようにして作られたか、謎である。
レア度:R
たかがメガネにRまで付いてる。そりゃそうか、異世界の合金だもんな。
次に置いてある排泄用のバケツを念じてみる。消えない。
仕組みがまだ良く解らないが、俺の所持品じゃないからだろう。……っと足音が聞こえてくる。警備の巡回か。ここは寝たふりしておこう。
「……異常なし……おい、起きろ。飯の時間だ」
警備兵が手に持った棒で鉄格子を叩くと大きな音が響く。
俺はその音で起きたように演技して起き上がる。
「こ……ここは一体どこだ……?」
「グランファング帝国の牢屋だよ。おら、さっさと食え」
差込口から食事らしきものが入れられる。明らかに堅そうな黒いパンと野菜の端のような物が入ったスープだ。警備兵は俺が食う姿も見ずにさっさと戻っていく。
この時間を覚えておこう。管理画面の中に時計が配置されてたので、アイテムの中から筆と用紙を取り出して書きこんでおく。
グランファング帝国……ゲームでも聞いたことない地名だな…。まずは食事を頂こう。腹が減り過ぎた。
「頂きます。……かったっ……!」
久々すぎる食事はガチガチに堅い黒いパンと、塩味が付いただけの貧相な野菜スープ……ラーメンとは果てしなくほど遠い食事をとり、夕日に沈む中俺は一人牢屋で過ごすのであった。




