ヨルムンガルドとの対談
後夜祭も終わり、晩餐会が開かれている最中に俺は一人、王宮の奥へと招かれていた。晩餐会には獣王、獣王妃、王子や四大貴族……ガルーダ族亡き今は三大貴族か。名だたる重鎮たちは全員晩餐会に出ている。
勿論俺のメンバーたちも全員だ。
そんな中、ただ一人俺だけを呼び出したのは――この獣王国で神竜と崇めたてられている『ヨルムンガルド』だ。
何故呼び出されたのか要件は分かる。
『ミナモト・コウキ』
帝国を滅ぼし、獣王国でさえも滅亡へと追いやりかけた『パヴァリア』の長であり、二千年前に『死霊都市』を滅ぼしパラケルススの魂を支配しつづけた遥か昔の異世界人……俺達の同郷の名だ。
この話を俺だけにするという事は、獣王にすら聞かせることが出来ない話という事だ。
誰一人いない通路を抜け、呼び出された部屋へとたどり着く。ここまで誰もいないのはヨルムンガルドが人避けの結界を張ったからだ。
俺がそれをなんで知ってるかって……こんなログが流れたしな。
――この先限定エリアです。対象PCは許可が下りてます――
どう見ても人払いです。ここはヨルムンガルドの領域だ。
「来たか。入って良いぞ」
「あ、失礼します」
ちょっと考え事してたら入るかどうか戸惑っていると思われたらしい。そりゃそうか。領域にいるんだから俺がここにいるってバレてるはずだしな。
社会人の癖が抜けず、ノックをしてゆっくりと開けて閉め、一礼――仕掛けた危ない。本当に癖が抜けないなぁ……。
部屋の中にいたヨルムンガルドはゆったりとしたロッキングチェアに座り、ワインを優雅に飲んでいた。机には晩餐会から持ち出したのかビーフステーキやチーズなどつまみに良さそうなものが皿に盛られている。
ヨルムンガルドは自身の前を一瞥すると、何もなかったところから植物が生えて、見る見るうちに一脚の椅子になった。
ヨルムンガルドと同じロッキングチェアだ。
促されるままに椅子に座ると、おお……これは良い座り心地だ。しっかりと草のクッションまで作っている手の凝りよう。
「話の前に、まずは一杯。飲める口だろう?」
「頂きます」
ワインはそれなりに飲める方だ。と言ってもいつも飲んでたのは安物のワインで、一年ごとに出るボジョレーを買って飲むくらいだ。飲み会じゃ焼酎や生ビールだったしな。
一口飲むと、芳醇なブドウの香りが口いっぱいに広がる。一口で判る。これとんでもなく美味くて高いワインだ。うわなにこれ、すげぇ。本当に美味い。語彙が消えるくらい美味い。
顔に出ていたのか、ヨルムンガルドが好々爺らしい笑みを浮かべる。
「良いワインじゃろう。千年ものじゃぞ」
吹くかと思った。
飲み込んでいて良かったよマジで!
千年ものって、何とんでもない物をさらっと飲ませてるの!?
ワイン通の知り合いから聞いた話がが、最古のワインでも1774年モノが一番古いって話なのに、千年!? もう価格なんて付けられないレベルだぞこれ……そりゃ美味いはずだよ。
「……美味いですねこれ。本当に」
「ほっほっほ。儂のとっておきじゃ。つまみも食べるが良い」
これに会うレベルのつまみってあるのか疑問に思ったが、意外と普通にあった。流石はヨルムンガルドというべきか。合うような物までしっかりと熟知してある。
ワインを飲みながら聞けば、どうやら二千年前に召喚された異世界人の中でワインソムリエがいて、獣王国のワインを大変気に入り、もっと美味くなるワインの作り方を伝授したようだ。
それをヨルムンガルド自身が覚え、熟成させたとっておきだそうだ。
そりゃ寿命なんてあって無いようなヨルムンガルドなら管理にぴったりだ。その異世界人に感謝だな。
二人でワインに舌鼓を打ち、グラスの中のワインが無くなるとようやくヨルムンガルドが話を切り出した。
「ここに呼び出したのは他でもない。二千年前の異世界人『ミナモト・コウキ』に付いてじゃ」
ヨルムンガルドから語られた『ミナトモ・コウキ』の話は驚くべきものだった。
二千年前もまた、異世界召喚による上位プレイヤーたちの召喚が行われていた。その時代でもまた戦争は繰り広げられ、戦略兵器としてプレイヤーたちが呼び出されていた。
コウキもまた、その中の一人。だが、コウキは呼び出されたその日に召喚した国を滅ぼした。多くの上位プレイヤーごと。
その時点で段違いの強さを持っていることが判る。だが、ヨルムンガルドをしてもどのような能力を持っているかまでは完全にわかっていないらしい。
「儂が知っているだけで、王都を包むほどの結界術、山を割るほどの斬撃、湖を干上がらせ、砂漠を水に沈めるだけの魔法を扱えておった。儂はあの時、本当にあの者が人間なのかと疑ったものじゃ」
「……普通に聞いたら人間技じゃないですね。これじゃまるで――」
「神。多くの者は奴を破壊神と言っておった。奴を止めようとした本当の破壊神もまた、奴に――コウキの手によって壊されてしもうた」
そりゃ正真正銘の破壊神だ。
ただの上位プレイヤーって訳じゃない。これは異常だ。
頭の中で知る限りのネットゲームのシステムを思い出してみるが、心当たりがない。俺が知らないか、未来のゲームなのか。
「奴の目的は『門』。つまり異世界の、お主たちの世界へ通じる門を開くことじゃ。これはパラケルススからも聞いておろう」
「ええ。その為に邪神をも復活させ、門を開こうと躍起になっていたと」
「邪神はその名の通り、この世の邪悪な心を司る神じゃ。コウキの果てなき力に邪神も魅入られてしまったのじゃろう。奴らは地脈を吸い上げ、世界樹を焼き七柱の武器を奪い次元を歪めおった……これの意味するところはお主、わかるか?」
地脈や世界樹うんぬんは分からないが、パラケルススは七柱武器が『門』を開く鍵になると言っていた。次元……というと空間をゆがめるって認識でいいのなら――。
「大気が不安定になり、天変地異……世界が滅びかけたって事でしょうか」
「うむ。そもそも召喚陣自体も禁忌の代物。次元に穴を開く行為じゃ。世界を隔てる壁に穴を開くどころか、強引に歪めば次元の壁は壊れ……この後に何が起きるか儂にも判らん。じゃが間違いなく」
「俺達のいた世界にも影響は出る」
「うむ」
とんでもない事を聞いてしまった。二千年前にそんな出来事があったのかというよりも、まさか俺達がいた地球にまで影響が出るとは。
コウキが何としてでも門を開きたかった理由は俺には理解できない。だが、それの結果がこの世界だけでなく、元いた世界にまで影響が出るともなれば見過ごすわけにはいかない。
父さん、母さん、兄貴、先輩、気の良い後輩に中の良かった友人達。
俺みたいにGM能力を手に入れたならともかく、何の力もない一般人では未知の大災害には抗う事は出来ないだろう。
思わず、腰に下げているレヴァーテインの柄頭に手を当ててしまう。
「既に七柱の武器の封印は解かれた。直に他に封印も解かれるじゃろう。儂が知る限りの七柱の武器のありかを教える。何としてでも奴らより早く、手に入れよ」
「はいっ!」
これは俺にしかできない役目だと何となくわかる。
ゲームマスターは、世界の運営を担う存在だ。
世界を存続させるという意味でなら、俺の役目だろう。
「だが、驕るでないぞ。お主一人で出来るのはたかが知れておる。レヴァーテインに認められたとしてもな」
「判ってます。だからこそ、コウキも一人じゃなくなった」
「うむ、その事が判っているのならば心配は無用じゃな」
コウキは一度失敗し、反省した。そして仲間を作った。
これに対し、俺が一人で挑んではコウキと同じく失敗するのは間違いない。それと同じ失敗をするわけにはいかない。
そもそも一人でやるつもりはなかったけどな。アデルやヨーコ、秋葉に皆も率先して手伝って来るだろう。無理強いはするつもりはないが傍に居ない光景が想像できない。
これで伝えるのは終わりなのか、ヨルムンガルドは立ち上がり俺に向かって頭を深々と下げる。
「頼む。この世を守ってくれ」
「言われずとも。だから貴方も休み、この大地を守ってください。地の三竜ヨルムンガルド」
「っ! くははっ! 早速と儂を頼るか。良かろう、全ての大地を守ってやる」
愉快そうにヨルムンガルドがけらけらと笑うと、俺も思わず笑みがこぼれ声をあげて笑ってしまった。
そして獣王国での最後の夜は更けていくのだった。
あ、お土産に千年モノのワイン5本くらい貰いました。
ローラン王に一本上げたら腰抜かすだろうな。
新しい話を二つ目始めました!
今度は悪の組織が異世界に!
Re//悪の組織の『異』世界征服記~可愛い総帥はお好きですか~
https://ncode.syosetu.com/n3438fv/
こちらも良かったらどうぞよろしくお願いします。無双ものです。ノンハーレム。




