後夜祭
お久しぶりです。燃え尽き症候群で更新を止めていましたが、他の作品を書くうちにモチベーションが復活したのでこちらの方も続きを書くことにしました。更新速度は週一ぐらいですが、宜しければまたお付き合いください。
これまでのあらすじ。
獣王国の危機を救った正樹一行は、怪我も終え仲間たち全員と獣王祭を楽しんでいた。正樹達も獣王祭のイベントの一つ、狩猟祭に出るものの惜しくも二次予選で敗退。
楽しむことを重視していた正樹は満足げで、嫁たちと共に獣王祭三日目を過ごす。獣王祭三日目は祭り最大の目玉でもある闘技部門の決勝戦へと出かける。
旅で知り合った仲間達と合流し、貴賓席で試合を見物する正樹達。
そして決勝戦は前大会優勝者である闘獅子族のシーザーを破った正樹と同じ異世界人の『飯山聡』と正樹達に命と大事な巫女であるフェンを救ってもらった闘獅子族のネメアー。奇しくも師匠と弟子が戦う決勝戦となり、会場の盛り上がりは最高潮。
互いの拳と拳がぶつかり合い、技と技の応酬が繰り出される激戦の中、聡の奥義がネメアーへと繰り出され――、『有難うございました』。ネメアーは尊敬すべき師に礼を言い、膝を付いた。
『け、決着! 決着や! 激戦を潜り抜け、獣王国の頂点に立ったのは! 人族の老紳士! 聡選手やーー!!』
――ーオオオオォォォォォォ!!
惜しみない大歓声と拍手が聡さんへと送られる。しかし、俺達は今それ所じゃなかった。
「マサキおにーさん……! ネメアーおじさんが……ネメアーおじさんが……!」
「分かってる。今すぐ俺が向かうから安心してくれ。フェンも行くか」
「は……はい……」
オロオロとして、涙目を浮かべているフェンを優しく片腕で抱き抱える。
フェンはぎゅっと俺の腕にしがみ付く。
ネメアーは既に救護班によって担架で医務室まで運ばれている。
この国の回復魔法を信用してない訳じゃないが、治すなら速い方がいいだろう。
警備の人に頭を下げ、関係者通路を通り急いで医務室まで向かう。俺に続いてガードル達を除く、全員が後ろについてきた。やっぱりネメアーの事が心配なんだろう。
医務室の扉を開けると、そこではエルフ、妖精族、アゲハチョウの羽を持つ蟲人族が必死に回復魔法をかけていた。
必死過ぎて俺達に気づいた様子もない。
「何という傷の深さだ! 腕の筋肉が断裂しておる! 妖精の、そちらはどうだ!」
「こっちは終わったよ! あの人、これでも手加減してたみたい。アゲハの方は?」
「ダメ。足のダメージが深すぎて、中々回復が進まない」
思った通りだ。聡さんなら致命傷になるような傷は与えるはずがない。手加減が出来るからこそ、師匠をやれるからな。
両手足のダメージが深いのは、推測にすぎないが限界を超えた力を使っていたからだろう。あの青白い光は回復魔法の光だったし、それで自己回復しつつ、あの力を発揮していたんだと思う。だが、その副作用がこれだ。
強引に回復魔法で治癒し続けたとしても、筋肉の断裂、神経の摩耗、骨に掛かる負担など、全てを回復しながら戦うなんて不可能に近い。
短時間しか持たない、本当の切り札に近い行為だ。長時間保つにはネメアーの回復力が足りない。
筋肉は切れれば切れる程、丈夫にしなやかになるが、回復魔法を掛けながらやるとどうなるんだろうな。
少々気になるが、そんなことは後回しだ。さっさと回復魔法をかけよう。
「すまないが、少し場所を開けてくれないか?」
「あぁ!? なんだお主は……って!? トウドウ伯!? いや、しかし今はこの通り治療中で」
「俺も回復魔法が使えるからな。人手は多い方が良いだろう」
「むう、確かにこのダメージだと人手が多い方が助かります」
「ちょっと今から使う魔法は他言無用にしてほしい。ちょっと度が過ぎてるんでな」
「は、はぁ……」
困惑しているエルフを他所に、俺はネメアーに手を向け『フル・ヒール』を発動させる。
全身ボロボロだったネメアーの身体が、温かい光で包まれ、特に怪我が深かった手足、聡さんに打ち付けられた所がより強く発光して、見る見るうちに全身の傷が塞がっていく。
「うぇっ!? なにこれ! 三人掛かりで治してた傷があっと言う間に!?」
「それだけじゃないよこれ。すごい濃厚な魔力だよ」
「体内の傷も回復してる。これなら、うん。他言無用しないとマズイ」
ご理解いただけたようで何より。これが知られるのも余計な騒動の種なので、黙っていてくれると凄く助かる。最低でもこの国を出るまでは。
広範囲の回復魔法を使うってことは割と知られてるんだが、手足の再生、完全治癒まで出来ると知られると、間違いなく面倒なことになるんだよなぁ。仲間だったら体裁気にせずに使うんだけどさ。
最後に〈鑑定〉して確認。状態異常なし、HP全快っと。後はMPだけだな。残り12しか残ってない。
MPも枯渇状態だと目を覚ますのに時間が掛かるので、ここから先はアデルに頼もう。
治療していた三人は今度は聡さんの治療に向かうらしく、俺達に後を頼んで出て行った。
聡さんもネメアー程じゃないけど、両腕のダメージは深そうだった。あれ下手すりゃヒビ入ってるかもしれないな。それ以外は大丈夫だし、あの人たちに任せて大丈夫だろう。ヒビや骨折程度ならすぐに治せるっぽいし。
アデルが〈魔力供給〉を行っていると、ネメアーがうっすらと目を開け、目を覚ました。
「ここは……? それに、マサキ君……フェン」
「ネメアー……おじさん、大丈夫です……か?」
「ここは医務室だ。ネメアー、何があったか覚えているか?」
「……あぁ。ふふ、やはり負けてしまったね。改めて思ったが、師は本当に強い。強いなぁ」
ネメアーは天を仰ぎ、手を伸ばす。
「その割には、嬉しそうだな」
「そうだろうか?」
「ああ。だって凄く嬉しそうにしてるじゃないか」
ネメアーはしみじみと深く満足した様子で微笑んでた。自覚してなかったのか。
「そうか。負けてしまったが、やはり師と全力で戦う事が出来たからね。満足しない筈がないさ」
「その辺りは俺には判らない世界だが、ネメアーが満足そうならそれでいいさ」
「しかし、フェンには悪いことをしてしまったね。勝つと約束していたのに」
「んと……いいですよ。ネメアーおじさんが……、無事なら、私はそれだけで十分……です。それに、ここで、勝たなくても……いつか、勝てば……約束破った事には……なりませんよね」
おお、そう来るか。確かに、時間や場所の指定をしていないからな。時間が掛かってもいい、いつか
聡さんを乗り越える日が来たら、ネメアーは約束を果たしたことになるな。
「ふっ、そうだね。まだ、約束を諦めるわけにはいかない。必ず、師を超えるよ」
ネメアーは優しく、フェンの頭を撫でて笑顔を浮かべる。そうだ。いつか超えればいい。今じゃなくてもな。
魔力の補給を終え、意識ははっきりしていてもネメアーが満足に動けるのは夜になってからだった。
表彰式は既に終え、今は獣王国全体を使った獣王祭の締めくくりである後夜祭が行われている。
闘技場では、司によるライブコンサートが開かれていた。
移動するのもなんだし、このまま司のライブを聞くことにした。
席は満席で、貴賓席ですら埋まっている。空いてるのは王族の席だが……流石に其処に邪魔する訳にはいかないので少々ズルをしよう。
人が入れない場所、闘技場の屋上に俺が秋葉を、アデルがヨーコを、レヴィアがフェンとネメアーを抱え込んで飛ぶ。観客達の視線は司に集まっているので、こうやって飛んでも誰も気づかない。
屋上に着くと、そこには既に先客がいた。数人の有翼人種、ハイピュリア達だ。
空を飛べる面々は考えることは同じなようだ。全員顔を見合わせて少々罰が悪い顔をしてる。
その中にお邪魔しようと降りると、数人程、翼がない人たちを見つけた。聡さん達だ。しかも料理持ち込みかよ。
どうしてこんなところにいるかと思ったが、聡さんならいてもおかしくないか。自力で飛べるからなこの人。
「おや、正樹君達もここに来たか。ここなら十分空いているから座ると良い」
「すみません、お邪魔します」
「と言っても私達の席ではないのだがね。こうやって炙れたもの達が勝手に居座ってるだけさ」
聡さんに促され、隣の席にお邪魔することに。聡さんはワインを片手に、音楽を楽しんでいる。音楽がアニソンってことを除けば、ダンディな老紳士が絵になるな。
今の歌はSFシリーズの、FのEDテーマだ。速いテンポだが、獣人達にはこれもお気に召しているようだな。
意味は分かってるとは思えないが、こういうのはノリが大事だ。意味なんて後で調べればいい。
「な、司の歌は良い歌声だろ」
「手伝いをしていた時は満足に聞くことが出来なかったが、こうして改めて聞くと司は本当に歌が巧いな……」
「うん。前にもマサキと一緒に聞いたけど、こう、元気が出る歌声よね」
「私、アニソンとかは疎い方なんですけど、こういう歌なら好きですね」
「歌に関しては私は分からぬが……、皆が好きになる理由がどことなくわかる気がするよ」
「私も……ツカサおねーさんの歌は……好きです……ね。教えてもらった……歌も凄く良いの……ばかりですし……」
「思わず踊りたくなるような歌じゃのぅ。こ、こうか?」
「あははっ! レヴィア、なにそれ。踊りってのはこうやるのよ!」
レヴィアが腰を振り、楽しそうに踊り始めた。それにつられてアリスも飛び回り、踊るというか遊んでる。奇妙な踊りだが、楽しそうだし意外とあってるな。
レヴィアとアリスに釣られて、他のハイピュリア達も空を飛びながら踊り始める。
やっぱ音楽の力というのは偉大だな。見知らぬ者同士でも、こうやって仲良く、同じ空間を楽しむことが出来るんだからな。だからこそ、司は詩人の道を選んだのかもな。いや、あの司にそんな深い考えあるかどうか怪しいけど。基本的に自分が楽しければオッケー、皆も楽しければ更に良しな人だしな。
俺も聡さんに習って、酒を取り出して皆に振る舞う。ビールサーバーを取り出したいところだが、今日は狩猟部門で買ったあの果実酒だ。ジュースのように甘くてなかなか美味い。
聡さんの方を見てみると、聡さんがネメアーにワインを差し出し、グラスに注いでいる所だった。
「ネメアー。傷の方は大丈夫かい」
「マサキ君のお陰でこの通り。師よ。今日は本当にありがとうございました」
「私としても、君の成長を見ることが出来て良い一戦だった」
「そういって頂けたら幸い。必ずや、師から受けたあの奥義、物にしてみます」
「ああ。覚えてもらわなければ困る。技術は守るものでもあり、語り継ぐための物だ。完全に私の技を模倣するのではなく、ネメアー。君なりに奥義を完成させなさい」
「はっ! 必ずや!」
「うむ。そのためにも、君についていって徹底的に教え込まねばならないな」
「「え?」」
俺とネメアーの声が重なり、酒を飲んでいた皆の動きが止まった。
ちょっと待て、今なんて言った。着いてくるって……もしかして、うちに来るのか!?
「ちょっと待ってください。聡さん、その言い方からすると、もしかしてアタミまで来るつもりですか?」
「そのつもりだ。別に私が行っても構わないのだろう」
「そりゃ構いません……というか歓迎しますが、良いんですか? あんな立派な屋敷があるというのに」
あの日本庭園は見事だった。あの風景を維持するには毎日とは言わないが定期的な手入れが必要だろう。
あの庭の手入れも聡さんがしてると聞いてるし、この国の庭師のレベルがあそこまで高いとも思えない。日本のわびさびが分からないとあの空間は作れないだろうしな。
「あぁ、正樹君は知らなったか。実はだな……。大変物凄く残念な事だが、あの戦いで私の屋敷が全壊してしまってね。ははは……」
はい!? 全壊!?
詳しい話を聞いてみると、聡さんの所にも王鳥族の追手が伸びており、そこで戦いになったそうだが、狂獣化しても難なく撃退。聡さんだから仕方ない。
その後は、屋敷の守りはガードル達に任せて、聡さんはクリスタに乗って街中のアンデッドや狂獣化した獣人達を狩り、避難しそこねた人達を助けまわっていたらしい。
粗方助け終わると、俺達の手助けに回り、異形の姿になったノーフェイスに強力な一撃を食らわせた。
までは良かったらしいんだが、吹き飛ばした腕が物凄く運が悪く、屋敷に落下。
庭園は吹き飛び、屋敷は崩壊。ガードル達も慌てて他の騎士達と一緒に逃げたらしい。地下に避難していたリリンさんは地下室が頑丈な作りだったのが幸いして無事。
その後、戦いを終えた聡さんの目に現れたのは、苦心の末に立てた屋敷が全壊した姿だったらしい。
「まぁ、それならいっそのこと、ネメアーを徹底的に鍛えるついでにアタミに向かおうと思ってね。まとまった金銭が必要になったので、こうして闘技部門に出たわけさ」
「そういう理由でしたか。言ってくれたら住む屋敷くらいなら、こちらで融通したのに」
「ははっ。流石に其処まで世話になるわけにはいかないさ。それに、自分の家は、自分で買ってこそ、本当の家だと思うからね」
「その気持ちは判ります」
アパートとかマンションを借りるのもいいんだが、やっぱりいつかの夢として、マイホームは持ちたいという気持ちは俺にもよくわかる。そのために貯金もしてたし。
「それに、居住を移す理由はネメアーを鍛える事だけではないからね」
「というと?
「君の戦いを見せてもらったが、正樹君。君も鍛えた方が良い。尤も、それは君自身が良く知っていることだろう。これから先も、あのような相手と戦うつもりならば」
「……ええ。まぁ」
「君さえ良ければ、私の教えを受けてみないか? 剣を扱ったことはないが、体術を学んでおくだけでも随分と違うはずだ。それに経験も積める。どうだい、悪い話じゃないと思うんだが」
確かに俺は他の同郷の連中と比べると、経験が圧倒的に足りない。
スキルで強引に補っているが、それもいつまで通用するか分からない。
竜馬ともある程度やりあえるようになってるが、まだあいつの無双技を使われると押し切られる。
《無敵》や多彩なスキル魔法があっても、戦いの基礎自体が出来てない。
建物でいうなら土台を素人が作ったマンションの様なものだ。いつか崩れる。
そのいつかが俺には恐ろしく怖い。仲間を、大事な人を失うのが怖い。だからこそ、鍛錬を欠かさないでいる。
だが、独学でやるのにも限界があるというのも確かだ。
折角の機会だ。ここはひとつ、聡さんに鍛えてもらおう。
「そうですね。これからの事を考えると、経験を積んだ方が良いのは確かです。聡さん、こちらからもお願いします。俺を鍛えてください」
「ああ。分かった。必ず、君を強くしよう」
そういうと、聡さんは俺に手を差し出し、俺も聡さんの手を握――。
「まずはここで油断しないことだ」
「おおぉぉ!?」
「マサキ!?」
思いっきり投げられて背中を打った。《無敵》でダメージないけど衝撃すっげぇきた!
アデルが慌てて俺を抱き起していると、周りの皆が何事かと思いこっちを見てるぞ。
今の状況で油断もないだろう、そこは師匠と弟子が握手するところじゃないだろうか。
まぁ、鍛えてくれるのは願ったり叶ったりだ。これ位の理不尽は受け入れるさ。
流石に祭りの日に修行なんてするつもりはなく、今の一撃はあいさつ代わりのようなものらしい。
再び起こされて、今度はワイングラスを差し出される。
「そんな警戒せずともいい。ワインを持ってるときは流石にさっきのような真似はしないさ」
「さっきあんな目にあったばかりなので、警戒するなという方が難しいかと」
少々気を付けながら受け取ると、苦笑された。さっき、あんな目にあったんだから仕方ないだろう。
聡さんとワインを乾杯し、軽く傾けて飲む。
うん、いいワインだ。獣王国にもこんな美味いワインがあるんだなぁ。うちも負けてられないな。
歌も佳境に入り、〆の歌として歌われるのは、電脳世界に飛ばされた少年少女達がそこで出会った大事な仲間と共に苦楽を共にし、成長していく物語。それのOP曲であり、最後に流れた曲だ。
「ほう……ここでこの歌を選ぶか」
「聡さんも知ってるんですね」
「当然だ。私もこう見えて、ゲーマーだからね」
無限大の音楽が流れ、闘技場の心が一つになる。
よく見れば、民も、貴族も、長も、獣王も歌っている。曲も知らないのに、なぜか歌えている。
これは司の〈ソウルコンサート〉だ。仲間の数が多ければ多い程、同調し、歌を伝える詩人系ジョブの切り札。
まさかこんな使い方するとはな。効果は歌う人数が多ければ多い程、歌の効果を増大させる効果を持っている。盛大にスキルの無駄遣いだが、良い。
こうして、三日目の夜は過ぎ、獣王祭は大成功の下に幕を閉じた。
そして、それは俺達の帰路が近づいていることでもあった。
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