宴、円卓の海賊団
帝国の船を沈め、捕虜を解放した後俺達は、勝利の宴を行っていた。
まだ先はあると思うが無茶な指示に従ってくれた部下達を労うことはだいじだ。
進路を微調整しながら今は波が少ない波打ち際に船を付け、俺達は俺の『ルーム』の部屋の中で宴をしている。
『ルーム』の魔法は街の中でしか使えないという事だったが、そういう縛りもこの世界では関係がないらしい。これならばいざという時の緊急避難としても活用できるな。
『ルーム』に海賊団の皆を呼び込んだ時は一斉に驚いていた。
波の揺れもなく、豪華な調度品が並んでいる。
皆が一番驚いたのは設置してあったビールサーバーだ。キンキンに冷えたビールの美味さに大酒のみのバルバロッサが感涙していた。
「かぁぁぁぁ!うめぇっ!冷えたビールってのはこんなにうめぇのか!!」
泣くほどなのか。
最初出会った時にエプロンをしていたローハスは、キッチンで嬉々として調理をしていた。薪もなく不思議と火が出るキッチンに驚いていたが使い方を教えると直ぐに覚えてくれた。こういう順応性も高いのは凄いと思う。
「大親分、こいつは凄いですね。調味料も見た事ないのも揃ってますし、胡椒もある。腕の振るい甲斐がありますよ!」
部下達はソファーの柔らかさに驚きながらも脱力して堪能していた。
ダメソファーという物を与えたらこいつら起きて来れないんじゃないかと心配になるな。
罠として後で設置してみよう。俺がダメソファーの虜になるかもしれないけどな。
ローハスにルーム倉庫に収めていた肉類や野菜類、さっきの船団から徴収した食料などを提供して俺は風呂の準備をしていた。大親分のやる仕事じゃない気がするがどうにも風呂に入っていないというのが凄く落ち着かない。髪がかゆ過ぎる。
俺の後で良ければあいつらにも使わせてやろう。清潔に保つのは大事な事だ。
風呂を掃除しながら元の世界の事を思い出す。先輩には申し訳ない気持ちで一杯だ。
親はネットゲームの仕事をするというのが理解できないらしく、余り連絡を取っていない。ゲームで遊んでるだけと思われてるらしい。
友人達は元気にしているだろうか。こっちの世界で会ったら色々手助けをしてやりたいが一番は呼ばれないことだ。平和な世界にいるに越したことはない。
「大親分!料理が出来ました!」
「ああ。今行く」
思い出に振り返るのもおしまいだ。彼奴らの元に向かって俺も飯を食おう。
血に濡れて多数の人を切り殺したとしても腹は減る。
無敵でも腹が減っては戦が出来ないからな。
「おお…いい匂いだな。美味そうだ」
5つあるうちの一番広いルームで食事をすることにした俺達。
俺が部屋に入ると香ばしい美味そうな香りが漂ってくる。思わず腹の音が鳴ってしまった。
「大親分から貰った肉と俺達が積み込んでいたモノで今日は大盤振る舞いをしてみました。これだけの料理を作ったのは久々で楽しかったですね」
ローハスは汗を掻きながら、満足そうな表情を浮かべている。
俺は料理はある程度するが、ここまで好きとはいえないな。
しかし……実に美味そうだ。早く食べたい。
「よし、お前ら。乾杯だ。ジョッキを持て!」
キンキンに冷えたビール、酒が苦手な奴はオレンジジュース(力技による搾りたて)が入った木のジョッキを全員が掲げる。
「今日の勝利に、明日への船旅に向けて、乾杯!!」
「「「「「「「「乾杯!!!」」」」」」」」
俺の合図とともに全員でジョッキを当てて一気に皆で飲み始める。
早速俺はビールを半分ほど飲む。酒は結構飲める方だ。会社で一番飲めるから酔い潰そうとした先輩を逆に酔い潰して嫁さんの元へ送り届けた事もある。
次は飯だ。俺の注文で鳥の唐揚げとフライドポテトをローハスに作ってもらった。
こちらの世界でも似たような料理はあるが、少しずつ違うようだな。
鳥の唐揚げでのタレを作る時は俺が作り方を教えた。醤油や味噌、ニンニクもこの世界にあるようでタレに使うやり方を羊皮紙にメモしていた。
ついでに二度揚げの方法も伝えた。これをするとパリっとした仕上がりになって非常においしい。
俺は鳥の唐揚げを頬張ると肉汁を噛みしめ、そして一気にビールを流し込む。
「ぷはぁぁぁ………!」
実に生き返る。身体が活力でみなぎるようだ。
俺が満足そうな様子を見せていると、一斉にから揚げに群がる。俺は自分の分は数個確保して後は皆にも美味さを堪能してもらおう。病み付きになるはずだ。
フライドポテトもホクホクとしていてうまい。牢屋生活では良いパンには加工できたが謎なパンにもなったりしていて、こういったジャンクフード的なものが非常に恋しくなっていた。
皆が食い慣れた肉として兎の肉も提供してある。実に美味そうにソテーされていた。
ナイフとフォークで器用に食べていると赤ら顔になったバルバロッサが酒臭い息で声を掛けてくる。
「そういや大親分。俺達の海賊団の名前。まだ決まってやせんでしたね。名前どうしやす?」
「勝手にお前らが俺を大親分にしてたからな。帝国から逃げるのに必死で後回しにしていたが…やっぱり必要か?元はお前の海賊団なんだからそのままでも俺は良いんだが…」
「そいつはそうですが…ゴクゴク…ぷはぁっ!やっぱり大親分に決めてもらいたい!おねげぇします!!!」
テーブルに頭を付けそうな勢いで頭を下げてくる。
元はバルバロッサ海賊団とローハスが補足してくれた。
ならそれに負けない名前にしたいものだな。
「俺のネーミングセンスがいいかどうかは知らないが…考えてやる」
部下からビールのお代わりを受け取り、飲みながら考える。
この程度じゃまだまだ酔わないから考え事くらいは出来るな。
マサキ海賊団…そのまますぎる。バルバロッサの方がインパクトが強い。
なら元のオンラインゲームの名前から拝借してブリタリア海賊団…。
もう少し何かインパクトが欲しい所だ。
何かないかと思案すると腰に差していた『セブンアーサー』が目に入る。
「円卓の海賊団…」
ぼそっと思い浮かんだまま呟いていた。
語呂的に悪くはない。それに円卓というのは今丁度飯を食っているテーブルだ。
皆で囲む、仲間を大事にするという点では有りだろう。
「円卓の海賊団……良い名前っすね」
「ええ。名前を入れるより団結力があるような感じがします」
「後続に繋げ易いって意味でもありっすね」
もうすでに後続の事を考えても仕方ないと思うが、皆がこれに頷きながら酒を飲む手を止めていた。
余り考えても良いのは思い浮かびそうにない。呟いた俺の直感を信じよう。
「なら、お前ら。円卓の海賊団で異論はないか?」
俺の言葉に全員が大きく頷いた。
「よし、俺達は今から円卓の海賊団だ!!もう一度乾杯だ!!」
「「「「「「「おおおーーーーーー!!!!」」」」」」」
ビールを並々と注ぎ俺達「円卓の海賊団」は帝国からの脱出と、これからに向けて夜遅くまで宴を続けるのであった。