獣王祭二日目(前編)
一ヵ月間が空きましたが、連載再開です。
GCノベルズ様のHPでは既に乗っておりますが、『GMが異世界にログインしました。』3巻が12月26日発売です!
という訳で記念として、今回は溜め込んだ分を連続投稿とします。
活動報告にて、フェンのラフ画を乗せています。
昨日の夕食は美味かった。
イルのお勧めするだけある。ジュワ鳥のパイ包み焼は絶品だった。
それもそのはず、女将は三年前に狩猟部門で優勝を取るほどの腕前で、その賞金で酒場を開いたとイルが言っていた。その時に狩った獲物はミスリルザウルスとの事。あれで何を作ったんだろう……。
イルとは昔からの仲らしく、女将の好意で個室を貸してもらった。
一次予選を突破したことで、余計な輩が絡んでこないようにと配慮してくれたようだ。
うちの仲間は女性ばかりだし、イル達も女性パーティーだから女将の気遣いには感謝だ。
流石にタダって訳じゃ気が引けるので、追加で料理を頼み、チップも弾んだ。
日本じゃやらなかったことだが、この世界に来て随分と経つのでもう慣れたものだ。口止め代という意味合いもあるしな。
酒の席という事もあっただろうか、つい口が軽くなって帝国での戦いの一幕を話した。
酒場で話すと大問題になるだろうが、個室なら問題ないだろう。
酒を飲み終わり、酔ったヨーコに肩を貸しながら立ち上がるとほろ酔い気分でイルが傍に来た。
「マサキ殿、実に楽しい酒の席だった。特に本人の口から聞く帝国での激戦は胸が熱くなるものを感じた。やはり、飾り立てられた詩や劇とは比べ物にならないな。それにマサキ殿がいた世界の話も実に面白かった」
「楽しんでくれたようで、何よりだ」
「貴殿のげーむという世界の話もまた聞きたいものだが、続きはまた今度にでもしよう」
「ああ」
こっちの人達にとっては俺達のゲームでの世界の話は娯楽として面白いらしい。
物語としてシナリオは凝ってるし、人心を引き付けるような話にしてあるから、当然と言えば当然なのかもしれないな。
イルとしっかりと握手をして、酒場を後にする。酒で軽く火照った夜風が肌に当たり心地いい。
アデルもヨーコも秋葉も機嫌良さそうに、俺の隣を歩く。
祭りという事もあり、夜道は盛大にかがり火や火や光の魔晶石で照らされているので、獣王祭の間だけは夜道も安全だ。
とはいえ、祭りには喧嘩が付きもので。
「おい! そこの人族! てめぇだてめぇ!」
「ん?」
人族―っていうと、俺くらいだよな。祭の間でちらほら見かけたが、そう多くはないし。
声のする方を振り向くと、そこには身体に包帯を巻いた牛頭族の男達がいた。その数はチンピラにしては多く、二十人はいる。
象頭族ほどではないにせよ、俺らの倍以上の巨体が群れを成してると、道幅が広い獣王国とはいえ、狭く感じる。
その中には一次予選で開幕から暴れた『ランページ』の連中もいた。
「ああ。お前らか。大した怪我はなさそうだな」
「この姿を見てよくそんな台詞を言えるな!」
いや、だってよ。大げさに包帯を巻いているが、誰も骨折れてないじゃないか。角は折れてるけど。
〈手加減攻撃〉を混ぜているから、打ち身か擦り傷程度の筈だ。
「で、何の用だ? 明日もあるから用事があるなら手っ取り早く済ませてほしいんだが。まさか落とし前を付けてもらいにきた、なんて言わないよな?」
「ああ! その通りてめぇの所為で俺達が勝ち損ねたんだ! 邪魔臭いエルフの小娘をあと少しで潰せたのに、邪魔しやがって!」
「……つまり、あの子を狙ったのは偶然じゃなく、意図的か」
「こうなったら、てめぇをボコボコにして憂さを晴らさせてもらうぜ! 女は当然ながらもちかえぐへぇぇ!」
牛頭族の男が言い終わる前に、俺の拳がそいつの顔にめり込み、打ち抜いた。
そのまま〈手加減攻撃〉抜きで振り抜き、男の巨体を吹き飛ばす。
男は吹き飛ばされた勢いで壁に激突し、頭から壁にめり込んだ。
「へ?」
「え? お。おい!」
「やるつもりなら、当然。やられる覚悟はあるよな」
あんな小さな子を意図的に狙ったというのなら、そんな下種には加減する必要はない。予選では人前という事もあって控えていたが、今はその必要もない。それに、俺の女にまで手を出そうとするなら加減する方が野暮だよな。
アデル達三人もやる気らしく、既に臨戦態勢だ。
俺の倍以上の身長を持つ牛頭族達だが、戦い続けた俺達の敵じゃない。
俺の拳で吹き飛ばされ、アデルが針状にした魔力を放ち、ヨーコが『パラディンゴーレム』を呼び出し叩きのめし、秋葉がゴム弾で頭を打ち抜いた。
総勢二十を超える牛頭族達は、あっという間にそのでかい図体を地に伏せることになった。
「全く、いい気分でいたのだがな」
「そうよねぇ。酔いが覚めちゃったわ」
「正樹さん、この人達どうします? 憲兵を呼びに行った方がいいでしょうか?」
「いや、その必要なない。おーい、見てるんだろ」
物陰に声を掛けると、そこからすっと黒装束を身に着けた連中が出てきた。
「気づいておりましたか」
「まぁな」
〈気配感知能力上昇〉のお陰で、彼らがいる事には気づいてた。それに、マップに映ってたしな。
気配の隠し方はガルムとジミーの方が上だな。
腕利きの影働きをしていたガルムはともかく、何でジミーは気配を消せるんだろうな……。
「いやはや、加勢しようと思いましたが、その暇もありませんで」
「それで、こいつらの事を任せてもいいか?」
「はい。お手数をおかけしました」
黒装束の一団は牛頭族をロープで縛り上げ、荷車に乗せてどこかへ運んでいく。
彼らが俺らについていた理由は、恐らくだが過去にも襲われた参加者がいたからだろう。
恨みや嫉みで潰そうとする輩は何処にでもいるしな。護衛がひっそりと着くのも当然と言えば当然か。
ちょっとしたゴタゴタがあり、少し遅れて城に戻ったんだが……。
「マサキ、一次予選突破おめでとうじゃの。まぁ、マサキなら当然じゃろうな」
「流石に、ここで躓く様な不甲斐ない真似は出来ないからな。二次予選からは厳しくなりそうだが」
「そうじゃの。爺から聞いたが、余程の腕前でなければ本戦は難しいらしい。マサキでも難しいかもしれぬな」
まぁ、俺は料理が本職じゃないしな。
料理スキルがカンストしているとはいえ、リアルで料理できる人の腕前と比べるとレパートリーも少ない。
家庭料理で何処まで行けるかわからないが、やるだけやるつもりだ。こういうイベントは結構楽しいし。
「でじゃ、マサキ」
がっちりとレヴィアに手を握られる。少女らしい手だが、なぜ逃がさないように握った。
「当然、予選で振る舞った料理は妾達の分もあるのじゃろ。ないとは言わせんぞ。そのためにまだ夕食は腹五分で止めておいたのじゃぞ」
「……今すぐ作るから一時間、いや、三十分待ってくれ」
スキルを駆使すれば三十分くらいで出来るだろう。疲れてるし早く風呂に入りたい。
「あの、マサキおにーさん……私の分も……」
「一人も二人も作るのも変わらないし、いいぞ」
「……♪ ありがとう、ございます……♪」
結局、レヴィア達の分のラム肉のポトフを作り直すことになった。
アデル達も手伝うといってくれたが、今回は大会じゃないのでスキルの大盤振る舞いだ。
〈熟成〉〈時間短縮〉〈料理の鉄人〉を使い手早く仕上げていく。
〈時間短縮〉を使えば、煮込み時間も十分の一だ。その分、煮込み時間の見極めが大変だが、それを補うのが〈料理の鉄人〉。これは料理時に集中力を増加させるスキルだ。
火を止めるタイミングを見極めるときに使うと便利なスキルだが、普段使わないのでお蔵入りしている。〈時間短縮〉を使う時しか使わない。もっと手間がかかる料理の時は使えるんだけどな。
手早く仕上げて、レヴィア達に振る舞う。
レヴィアが食べるという事を考えて、寸胴鍋で作ったが匂いに釣られて夕食を取り損ねた文官や兵士、それになぜかヴォルガンフ王まで来た。おい、獣王がこんな所に来ていいのか。
「うむ。実に美味い! 惜しいものだ。貴殿が他国の貴族でなければ手元に置くところだがな」
「それはご勘弁を。俺には大事な領地でやるべきことが沢山ありますので」
「ううむ、惜しい。実に惜しい。ところでお代わりを貰えるか?」
「あ、はい」
毒味とか必須な立場とか考えたが、先に兵士達も食ってるしそういう心配もないのだろう。
結局、寸胴鍋で作ったポトフは全て平らげられた。鍋一杯に作ったんだが……。料理長にレシピを教えたので、俺が作らずともこれからは普通に食える料理になるだろう。時間が掛かるが、味は保証できるので頑張ってほしい。
別にラム肉じゃなくてソーセージやベーコンでも大丈夫と伝えたので、彼らなりに改良するだろう。
第一予選を終えて翌日。今日は獣王祭二日目だ。
第二次予選からは闘技場の外にある広場で行われる。
酒を早めに切り上げたこともあり、酔ったヨーコも二日酔いにはならず、万全の状態で二日目に挑むことが出来た。
……俺達はな。
「いたたた……つい飲み過ぎたわい……」
「気持ちわるい……」
ドワーフで構成された『シュミート』の二人が二日酔いだった。
見た目が少年らしいドワーフなだけあって、そのギャップが凄いが、次の日に差し支える程飲んだらダメだろう。
他の仲間もあきれ果てリーダーらしき人物が、二日酔いの二人に青筋を立てて怒鳴りつける。
「お前ら! 去年も一昨年も同じことをやらかしただろうが! 何故反省しない! 飲んでも樽一つまでだって言っただろうが!」
「あだだだ! そんな大声出さんでくれ兄者……頭に響く」
「おおぅ……すまん、すまん。謝るから勘弁してくれ兄者」
どうやら彼らは兄弟のようだが、去年も同じことやらかしてるのかよ。
まぁ、俺も他人事じゃないんだけどな。
「ヨーコ、あれで止めておいてよかっただろ」
「……うん。止めといてよかったわー」
実は言うと、ヨーコは晩酌として『ルーム』の中にあるビールサーバーのビールを飲みたいと言ってたんだ。次の日が試合という事もあり、その日は腕枕してやると説得したので渋々ながら諦めてくれた。
その代り、朝方は腕が痺れて大変だった。腕枕ってこれがあるからなぁ。
俺達が苦笑していると、苦笑いを浮かべていたエルフの兄妹『ジェミニ』の兄が俺達の下にやって来た。妹も一緒だ。
「やぁ、君らの調子の方はどうだい?」
「貴方は……」
「おっと、俺としたことが名乗っていなかったか。俺の名はクラウン・シルバリオだ。そして妹のエルフィナだ」
「先日は、危ない所を助けてありがとうございます」
「俺はマサキ・トウドウだ。昨日の事は気にしなくてもいいぞ。単にアレが気に食わなかっただけだしな。それよりも聞きたいんだが……彼らは毎年あんな感じか?」
「ああ。料理の腕は確かなのだが、ドワーフ達の中でも大の酒好きでね。それに、彼らは酒が原因で去年も二次予選で敗退しているんだ。だからこそ、彼が酷く叱りつけてるのだろう」
「そりゃまた……。怒るのも仕方ないよな」
俺も酒は飲む方だから気持ちは判るが、酒は一日頑張った自分にご褒美として飲むものだ。
仕事に差支えるような飲み方はしない。
元の世界での仕事場でも、二日酔いが原因で欠勤した人がいて迷惑を被った事がある。
業務が滞るし、連絡ないし、昼にやっと仕事場に来た。
勿論、上司からこっ酷く怒られたのは言うまでもない。今、怒られている二人はそれと同じ状況だ。
そんな彼らを他所に、昨日と同じ進行役の女性が出てきた。
『お待たせしました! これより、狩猟部門、兎の門第二次予選を開始します!』
―――ワアアアァァァァーーーーー!!
人が大勢集まる闘技場周辺という事もあり、昨日よりも観客の数が多い。他の二次予選もこの周辺で行われているので、なおさらだ。
『早速ですが、今回狩る獲物を発表いたします。今回狩る獲物は――グロームサーモンです!』
サーモン……ってことは、今回は魚料理か。
グロームサーモンは、東門から出た先にある川の上流にいるらしく、今は産卵期で気性が荒くなっているそうだ。
体長は一メートルから三メートルと大きく、銀色の鱗を持ち、獲物に対して放電する性質を持っているようだ。
電気ウナギならぬ、電気シャケか!
産卵する為に海で栄養をたっぷり蓄えてきたので、脂がたっぷりとのっており、とても美味いらしい。
シャケはいいな。こうあぶって焼いても美味いし、鍋にしても最高だ。
刺身にしても美味いが……寄生虫が怖いからそれは止めよう。
生で食うにはどうすればいいんだっけか……冷凍すればいけるんだったか? うろ覚えだから覚えていない。
『それでは、皆様準備は宜しいですか? 今回は最初から騎乗した状態でスタートとなりますが、戻る際には獣舎にお預けください』
おっと、余計な事を考えていたら開始時刻が迫っていた。気を取り直して、開始の合図に備える。
今回は人数が少ないこともあり、最初から騎獣の使用が認められている。
俺達はクリスタの背に、エルフのシルバリオ兄妹は一次予選とは違う騎獣、何と『グリフォン』に乗っている。そんなものまで持っていたのか。
イル達はレンタル騎獣の『ブレイズクック』。ダチョウのような鳥で、真っ赤に燃える羽毛が特徴的だ。見た目が火傷しそうなほどに熱そうだが、敵対しなければ熱を感じることはないらしい。
身体を覆う炎で狂獣でさえも蹴散らすらしい。
自転車を使わないのは、今回は最初から騎獣に乗れるからだろう。レンタルなら買うよりは安いし、自転車よりは体力を使わないしな。
ドワーフ族達『シュミート』はジェノスライノスに乗っている。一族を代表として出ているので、持っていてもおかしくはないか。
『それでは、第二次予選兎の門、初め!! レッツハンティーング!!』
合図と同時に、クリスタの胴を蹴り、開幕から最大速度で飛ばす。
「クリスタ、最初から飛ばしていいぞ!」
「ぎゃうっ!!」
クリスタは嬉しそうに鳴き、砂煙を起こしながら突き進む。
後ろに続くのはイル達、シルバリオ兄妹のグリフォン、遅れて『シュミート』のジェノスライノスだ。
ジェノスライノスは速度や破壊力はあるが、加速するまでに時間が掛かる。
それに、騎乗した状態の乗り心地も悪いんだ。二日酔いの二人は【見せられないよ】的な状況になってそうだ。
後ろを振り向きたくない。悲鳴が聞こえたが知らない。
「アデル、グロームサーモンというのはどんな魚か知ってるか? やっぱり釣り竿とかはあった方が良いだろうか?」
「私も現物は見たことないのだが、電撃を操る特殊な魚らしい。釣るのは……どうだろうか」
「難しいんじゃないかしら? この部門で対象になる位だし、普通の魚と思っちゃダメよ」
「でも、試してみるくらいは良いと思いますよ。正樹さん、あの竿を使うつもりですよね」
「まぁな」
「あの竿とは?」
「これだな」
片手でクリスタにしっかり捕まりながら、黒い光沢を放つ一本の釣り竿をアイテムボックスから取り出す。
鯉を千匹釣り上げるクエストで貰える超高性能の釣り竿『大黒天の釣り竿』だ。これは竜を釣り上げた、という謂れがある釣り竿で非常に重く凶暴な獲物でも釣り上げることが出来る竿だ。
サウンシェードの冒険者ギルドで卸した大量のブロンズフロッグ。
実はあれはこの『大黒天の釣り竿』で釣り上げたものだ。
旅する最中、レヴィアの為に食料を手に入れるためにこの竿を出したんだが、ブロンズフロッグが入れ食いで大量に釣れた。
フレーバーテキストの所為か、レヴィアの視線が釣り竿に釘付けになっていたのは余談だ。本当に龍でも釣れるのかもしれん。
まぁ、この竿なら釣れるかもしれない。なんたって大黒天――破壊神シヴァの釣り竿なんだからな。クエストを発注していたNPCもふくよかな中年男だったが、あれも裏設定では大黒天の現身だったし。あれから発生するクエストも予定があったんだが……やりたかったなぁ……。
GMとしてもプレイヤーとしても。
ゲームの事に思いを寄せていると、マップ上に川が見えてきた。これを上流に向けて登っていけば『グロームサーモン』と遭遇できるだろう。
「クリスタ、あそこに道が見えるだろう。そっちに向かってくれ」
「ぎゃうっ」
川の手前にあった街道を曲がり、山道に進路を向ける。
普通に上るには険しい山道だが、クリスタにとってはこの程度の坂はどうという事はない。
大地を踏みしめ、砂煙を上げながら進んでいくと、マップの端に再び川が見えた。
クリスタは鼻をスンスンと動かすと、水の匂いを嗅ぎ取ったのか川へと足を進める。
道を塞いでいた倒木を蹴り壊すと水の流れる音が聞こえてきた。川が近い証拠だ。
「正樹さん、思った以上にモンスターが出ませんね。あたりに反応とかはないんですか?」
「いや、反応はあるぞ。ただ、クリスタが近づくと直ぐに逃げ出すんだ」
「それはそうだろう。クリスタは純粋なドラゴンだ。幼竜とはいえ、ドラゴンに手を出そうとするモンスターなんて滅多にいないぞ」
「まぁ、お陰で私達は楽させてもらってるし。ここはクリスタに感謝しましょ。普通ならここまで楽出来ないものですもの」
「ああ、そうだな。ありがとうな、クリスタ」
「ぎゃうぎゃう!」
クリスタは気にしないでいいよーとう風に鳴く。
鬱蒼と茂る森を抜けると、ようやく目的の川にたどり着いた。
川幅は百メートル以上あり、クリスタから降りて川に近づくと流れも速く、川底も深そうだ。
んー……、潜って取るという手段は無理そうだ。潜る事自体は出来なくはないが、これで素潜り漁はスキルがあっても無理がある。
「ヨーコ、こういう場合はどうやって引き寄せたらいいんだ?」
「んー、そうねぇ。こういう場合は、流れが緩やかな浅瀬に魚系統のモンスターはいることは多いわね。そっちに行ってみましょ」
「そうだな」
マップを見てみると、後ろから早くもシルバリオ兄妹が乗るグリフォンが迫ってきている。やはり空を飛べる優位性は大きいな。
シルバリオ兄妹は、丁度俺達の進む先にグリフォンを向かわせている。
再びクリスタに乗り、更に上流へと昇り、浅瀬のある場所まで移動する。
そこではヨーコのいう通り、一メートルから五十センチくらいの魚が川底を泳いでいた。
それを狙ってフィッシャーベアや、グリーンアルバトロス、更にはグリフォンまで魚を獲りに来ていた。
グリーンアルバトロスが川に向けて頭を突っ込み、川魚を咥えて飲み込もうとするが、突如、青白い光が川辺を照らし、グリーンアルバトロスに強力な電撃が直撃する。
「クアアァァァァ!?!?」
グリーンアルバトロスは、悲鳴を上げ、身体の至る所から香ばしい香りを漂わせる。
グリーンアルバトロスはふらふらとしながらも、急いで飛び上がろうとする。
「マサキ! アレ!」
アデルが指さす先を見ると、グリーンアルバトロスの背後から水柱を上げて、グリーンアルバトロスよりも高く飛び上がった巨大な魚の姿が。あれがグロームサーモンか!
電撃により弱っていたグリーンアルバトロスは、バクリと頭から丸のみにされた。
バシャーン! と水しぶきが上がると、川辺にいたモンスター達は我先にと逃げ出した。あいつらでも逃げ出すレベルかよ!
「まさか、こんなに凶暴な魚とは」
「しかも、電撃の威力も強いわ。ほら、見てよアレ。丸焦げよ」
ヨーコの視線の先には、グリーンアルバトロスが咥えていたと思われる魚の残骸が目に入る。
真っ黒に炭化しており、これだけでもあの電撃の強力さと、グリーンアルバトロスの耐久力が判る、
同時に、グロームサーモンの凶暴さも。
しかも、このグロームサーモンは一匹じゃなさそうだ。
逃げ出そうとしていたフィッシャーベアにも別のグロームサーモンが電撃を浴びせ、足元に食らいつき深い川底へと引きずり込んでいく。
他のモンスター達も次々とグロームサーモンに襲われ、食われていく。宛らパニック映画だなこれ。
グリフォンが辛うじて、グロームサーモンを返り討ちにして、空へとお持ち帰りしていたが、電撃は避けれなかったらしく、至る所から煙が出ていた。
勿論、川辺にいた俺達にもグロームサーモンが襲い掛かってくる。数は五匹だ。
釣る手間が省けたな。どうせなら釣りも楽しみたかったが、それはまた今度にしよう。こんなのがいたら釣りも満足に楽しめやしない。
グロームサーモン達にとっては俺達は格好の獲物に見えるだろうが、俺達にとっては単なる食材にしか見えない。
各自、武器を構えてグロームサーモンを迎え撃つ。……つもりだったんだが、急にクリスタが俺達の前に出て、グロームサーモン達に向かって走り出した。
「お、おいクリスタ!?」
「ぎゃうぎゃうぎゃう!」
クリスタは皮の中に入り、グロームサーモン達に向かって大きな尾を振り下ろすと、それだけで二体のグロームサーモン達が水面に浮かんだ。
残ったグロームサーモン達は左右からクリスタを襲うが、それよりも早くクリスタの爪と尾が振るわれ、あっという間に、五体のグロームサーモン達が陸へと打ち上げられた。
「ぎゃうっ! ぎゃうぎゃう! ぎゃうぎゃうぎゃーう!」
「あー、そうか」
「マサキ、クリスタは何と言っているんだ?」
「んー、はっきりしたことは判らないが、どうやらストレスが溜まってたみたいだ」
「ストレス?」
「ああ。ほら、昨日と今日に続いて、クリスタに乗っている時、全く戦闘が起きなかっただろ?」
「そうですね。でも、それってクリスタに怯えて出てこなかったんじゃ」
「それが原因のようだ」
何となくで判る程度だが、クリスタは俺達と一緒に戦いたかったそうだ。
昨日の戦いで、クリスタの出番が全くと言っていいほどなかった。
それが昨日、クリスタは移動だけで戦闘には全く参加できなかったのが不満だったらしい。
元来騎獣というのは、搭乗者と一緒に戦うものらしい。レオン王子とかいい例だな。
特にクリスタの場合は通常の騎獣と違い、〈コール・ドラグーン〉によって深い絆で結ばれているので、より一層ともに戦いたいという気持ちが大きくなっているようだ。
移動中でも、クリスタの気配に怖気づいて全てのモンスターは逃げ出してしまった。
そのストレスが積み重なり、こうしてようやく戦えそうな場面がきて、つい突撃してしまったそうだ。
その事を皆に説明すると、納得した様子で頷いていた。
「なるほどな。騎獣や騎竜は主と一心同体、相棒と呼べる存在だとレオン王子から聞いたことがある。確かに、クリスタの気持ちになってみれば、戦えるのに出番がないというのはストレスになるだろうな」
「まぁ、クリスタも成長すれば、私達みたいに話なり〈念話〉が出来るようになるし、それまでの辛抱ね」
「え? クリスタって話が出来るんですか?」
「出来るわよ。元々竜族って頭が良いから、ある程度成熟した竜って知恵もついて普通に会話や〈念話〉も使いこなすのよ。クリスタの場合は今でも十分知恵を付けてるから、普通の竜よりは早く使えるようになるかもしれないわね」
ヨーコはそういうと、クリスタの頭を優しく撫でる。
クリスタは嬉しそうに手に頭を擦り付け、喉をゴロゴロと鳴らす。まるで猫だな。
しかし、なるほど。それなら喋れるようになるまで、クリスタと一緒に居る時は出来るだけ戦闘にも参加させてやろう。騎乗して一緒に狩りというのもいいかもしれないな。
グロームサーモン達によって川辺は静まり返り、川の音だけが聞こえる。今のうちにクリスタが倒したグロームサーモン達を回収しよう。
一匹一匹が大きく、二メートルから三メートル。これじゃサーモンというよりイトウだな。
皮も分厚く、実に美味そうだ。この皮を炭火焼で炙って、醤油を垂らして食うと最高なんだよなぁ……。
感想、評価ポイントを頂けると大変励みになりますのでありがたいです。
ふとした思い付きで書き始めた狩猟部門、やってることはトリ〇じみた事ですね。個人的にサーモンは刺身か、炙りで食べたいですね。皮はカリカリに焼いて醤油を垂らしたい…。




