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一次予選前編

少々体調を崩しており、感想返しや誤字修正などが滞っております。申し訳ございません。

 狩猟部門は、参加者が二千人を超える大規模なイベントだ。

 それもそのはず、アース大陸はランド大陸のほぼ二倍の面積を持つ。

 獣王祭には、大陸中から人が集まるので、参加者もそれに伴い飛躍的に増える。

 闘技の方も千人を超えているらしく、第一次予選は百人ごとに分かれてサバイバルマッチだそうだ。勝ち残れるのはその中でたった一人。あっちもあっちで苛烈な戦いになりそうだ。

 俺としても、聡さんの戦いを見てみたかったなぁ。参加するって知ってたら見物に回ったのに。

 

 四つのグループに分かれたとはいえ、それでも一グループあたり五百人ぐらいいる。

 稀に二人組もいるが、大体は三〜五人組のパーティーで、大雑把に数えれば五十パーティーがいる。

 各チームが予選に備え、入念な相談や準備、武器の手入れなどをしている。

 中には誰を最初に狙うかなど、品定めをしているパーティーもいる。


 狩猟部門予選では、指定されたモンスターを一定数狩り、調理をしてポイントを競い合う。

 ポイントは獲物が大きければ大きい程ポイントが高く、狩ってくる速度が早ければこれもポイントとなる。

 狩った獲物は、運営から渡された特別なアイテムボックスに入れる必要がある。

 見た目は手提げ袋だが、獣王国の紋章、狼の頭に四つの剣が交差された王家の紋章が刻まれている。

 これに入れて初めて、ポイントとなる。容量も大きく、軍隊で使われるアイテムボックス同様、家一軒分は入るとか。ドサクサに紛れて盗むことは重罪となっている。

 指定されるモンスターは、直前まで判らないため予め狩って自前のアイテムボックスに入れるという事も出来ない。

 調理の方だが、これは単純に美味ければ高ポイントとなる。ただし、審査委員が十人いるので最低でも全員にいきわたる量を確保できなければマイナスポイントとなる。

 それ以外のポイントとして、運営から渡されたアイテムボックス自体がポイントとなっている。誰を狙っているか画策している連中はこのポイント狙いだ。ライバルを排除でき、ポイントも手に入る一石二鳥を狙っているのだろう。

 しかし、このアイテムボックスは既存のアイテムボックスと違い、普通に入れることは出来ても、取り出すには鍵が必要だ。貯金箱のような仕組みだな。

 鍵は運営しか持っていないので、調理という壁が立ちはだかるので獲物も狩らなければ上位を狙う事は出来ない。

 つまり狩りを終えたところを狙って楽をしよう、なんてことは出来ない訳だ。

 狩猟部門では、参加者同士の狩りもありとされており、アイテムボックスを奪われた時点で失格とされ、不慮の事故や正当防衛以外で命を奪った場合も失格の上、処罰される。

 狩猟を利用して殺害を企てようとしても、会場となる場所には予め、警備の騎士や国に雇われた腕利きの冒険者、姿を隠すのが得意なカマキリの姿を持つ蟲人インセクティアン族がいるので非常に困難だそうだ。

 それでも絶対とは言えないため、何らかの手段を用いて暴行を働く奴は絶えないそうだ。


 俺達のパーティーは俺以外が女性という事もあって自然と目を引き付ける。

 数パーティーは俺に目を付けているようだが、掛かって来るなら迎え撃つまでだ。ポイントがわざわざ向こうからやって来るんだ。せいぜい稼がせてもらおう。


「おや、貴殿は……」


 人込みの中から声を掛けられ、そっちの方を見てみると質の良さそうな軽鎧を身に纏い、見慣れた斧――フライドラゴンアクスを背負った女性が声を掛けてきてた。 彼女の後ろには仲間らしき女性達がいる。

 彼女は冒険者ギルドであった冒険者だ。一目でわかったのは、特徴的な斧と人族だったからだ。

 ちらほら人族の冒険者も見かけるんだが、大体は男だ。女性は滅多に見かけない。

 彼女の仲間も様々な種族で構成されており、ミニマムなドワーフ、猫人シャビアン族に狼人ウルシャン族だ。人の事は言えんが、他種族混成パーティーだな。


「マサキ、彼女はあの時の」

「あぁ、あの時ギルドで会った人だな」

「私の名はイーベルートだ。仲間達からはイルと呼ばれている」

「俺はマサキだ。まさかこんなところで会うなんて奇遇だな」

「それは私の台詞だ。まさか、その細腕で……ん? 今マサキと言ったか?」

「ああ」


 イルが何か思い出そうと考え事をしていると、彼女の仲間の一人、魔法使いらしい猫人シャビアン族の女性がイルに並び目を輝かせて俺に詰め寄る。


「マサキってえっと、まさかあの。劇になった『蒼の英雄』の」

「あ〜……一応そうだが。劇の方は出来るだけ言わないでくれ。劇にするために色々と盛られてるからな」

「うわぁぁあ! 本当にあの!? えっと、サインサイン」


 その場でカバンを探る彼女を、イルがこめかみを引きつらせながら、拳を落とす。

 ゴツンっと頭に拳骨を落とすと、彼女は頭を押さえ、その場で悶えた。いい音したなぁ。


「おぉぉぉ……何するのよー……」

「ミーツ、騒ぐお前が悪い。マサ……トウドウ伯、申し訳ない、こいつはあの劇を何度も見に行っておりまして」

「ははは……。まぁ、こういうのには少しは慣れたから構わないさ。あと、敬語も必要ない。名前もマサキでいいしな。公の場ならともかく、堅苦しいの苦手なんだよ」

「むぅ、そうなのだな。では、お言葉の甘えさせてもらおう。しかし、貴殿も狩猟に参加するとはな。あの劇の強さも誇張という訳ではなさそうだな」

「その辺りは、大会の結果を見てからだな」

「ふっ、そうさせてもらおう。互いに頑張ろう」

「そっちもな」


 イルは俺に背を向け、他の開いているスペースに戻る。ミーツは頭を押さえながら、狼人ウルシャン族の少女は律儀に頭を下げて、ぼーっと眠たそうに半分目を開けているドワーフの少女を背負いながら戻っていった。

 今少し聞こえたんだが……その子寝てないか? こんな所で寝れるとは、凄い胆力とでもいえばいいのだろうか。背負われてる姿は完全に子供である。

 それにしても、ギルドで会ったあの人と合うとは。偶然ってあるんだなぁ。

 そんなことを持っていると、『あーあーこほん』と大きな声が聞こえてきた。

 周りの参加者たちの視線が一斉に高台に集まる。そこには杖を持ったエルフの女性が立っていた。


『今から、第一次予選、兎の門を始めます。参加者の皆さんは静粛にお願いします』


 綺麗な声が周囲に響く。どうやら彼女が兎の門の司会役のようだ。


「へー……、風の魔法で声を飛ばしてるのね。後は水の魔法で増幅してるのかしら。こんな使い方あったのね」

「ヨーコ、よくわかるな」

「そりゃとーぜん。専門家ですもの。でもこの魔法は使えるわね」

 

 よく観察してみると、俺達の上にバスケットボールサイズの水球が浮かんでいる。

 風で増幅した声の振動を水球に送り、水球をスピーカー代わりにしているのだろう。声は振動で伝わるものだから、水とも相性が良い。

 もしかしてヨーコはこの魔法も再現するつもりなのだろうか。もしできたら、色々とやれることが増えるな。

 ヨーコの話を聞いているうちに、次第に周りが静かになる。

 討伐指定モンスターの発表だ。これを聞き逃せば何を狩ればいいのかわからなくなるので、自然と音をひそめる。


『それでは、討伐指定モンスターを発表します。皆さんに調理してもらうモンスターは――グランドラムです!!』


 グランドラムという名前が聞こえた途端、周りから「うぇっマジかよ!」「ついてねぇ……」「きっついな」などと言った嘆きの声が聞こえる。

 俺と秋葉はそのグランドラムというモンスターについては全く知らない。それほどまでに嫌な相手なのだろうか。アデルとヨーコなら知っているだろうか。


「なぁ、二人はそのグランドラムというモンスターは知っているのか?」

「ああ……三メートルを超える巨体を持つ巨大な羊型のモンスターだ。気性が荒く、その強靭な蹄から繰り出される一撃は狂獣の鱗さえ踏み砕く程だ。更にはグランドラムの鳴き声には、強い眠気を誘う効果がある。非常に厄介なモンスターだ」


 狂獣の鱗でも蹴り砕くってすげぇ脚力してるな。

 更に詳しい話を聞くと、グランドラムは雑食で、草木や肉も食うようだ。特に好物とされるのは、ハイポーションの素材になるブルーマッシュというキノコらしい。

 司会の説明によると、今回は前代未聞の魔力嵐ガストの影響で大量発生したようだ。

 このまま放置しておけば、回復薬の大高騰は免れず、作る事も不可能になるそうだ。

 この狩猟部門は、こういった害獣駆除も兼ねているらしいな。

 しかし、その一方でグランドラムの肉は大変美味で、毛皮も貴族御用達の高級布団の材料になるようだ。

 布団かぁ。そういえば、マイルームでベッドを弄った事はなかったな。

 裁縫スキルも布団を作れるレベルには上げていたし、ここでちょっと布団を改良するのも手か。

 司会の説明はまだ続き、グランドラムは南門から東の森に生息しており、捕獲後の血抜きや毛皮の処理は冒険者ギルドの解体業者が行うとのこと。

 血抜きの処理は面倒だから、やってくれるのは助かるな。毛皮や蹄などの部位は、ギルド買取になるそうだが、予めほしい場合は言えば大丈夫らしい。

 後は細かい説明を終え、いよいよ狩猟部門、兎の門第一次予選が始まる。


『それでは、皆さん準備は宜しいでしょうか? それでは、狩猟部門、第一次予選兎の門! 初め! レッツハンティーング!!』


――オオオオォォーーーーーー!!――


 怒号のような叫びが、大気を震わせ、地面を揺らす。

 俺達も目的の場所に向けて、全速力で駆け抜ける。

 アデルは控えめに目立たないように軽く飛び、地面を滑るように走る。

 俺と秋葉は持ち前の身体能力で、次々と他の参加者達を追い抜いていく。

 一番足が遅いヨーコは、帝国との戦争でも使った虎型のゴーレムに跨り、走っている。機動力が高いゴーレムを使えば、脚の遅さもカバーは出来る。

 しばらく走っていくと、後ろから大きなざわめきと、悲鳴が聞こえた。


「どけどけどけぇぇぇ! 邪魔だぁぁぁ!!」


 大きな声に後ろを振り向くと、牛の頭を持つ牛頭ごず族のパーティーが持ち前の突進力を生かし、目の前にいる参加者を吹き飛ばし、蹴散らしていく。


「げぇっ!? 『ランページ』の奴らも一緒かよ!」「今年はいないと安心してたのに、ついてねぇ!!」「わざと後ろにいやがったな! 汚ねぇ!!」


 どうやら、あいつらは周囲の参加者たちの反応から見ると、こんなことをよくやっているようだ。

 このまま無視して走ってもいいんだが、ちょっとあいつらの行動は目に余るものがある。

 

「悪い、ちょっと皆で先に行っててくれ」

「マサキ、どうしたんだ?」

「ちょっとお灸を据えてくる。直ぐに追いつくから」

「わかった。ならば、私達は先に向かうとしよう。行くぞ、アキハ、ヨーコ」

「はいっ! 正樹さん、待ってますからね」

「まー、マサキならすぐに追いついてくるでしょ。でもあんまり時間使っちゃだめよ」

「安心しろって。そんなに時間はかからないからな」

「ふふっ、そうね」


 後ろの奴らにぶつからないように俺はくびすを返し、『ランページ』の連中に向かって走る。

 突如逆走した俺に、他の参加者たちが目を見開かせて驚いていたが彼らの後ろには『ランページ』の連中がいるので、俺を気にしている余裕もなく、逃げるように走っていく。

 ちょいちょいっとスキル欄を弄る、んー……これでいいか。

 猛然と突き進む牛頭達は、俺達めがけて突き進んでくる。

 その手前で、必死に逃げていた小柄なエルフがこけた。


「っ!? エルフィナ!!」


 同じパーティーらしき、エルフの青年が気づき、急いで戻ろうとするが、今のままでは間に合いそうにない。

 仕方ない。ちょっと予定が狂ったが、手札を一枚きる。

〈疾風の如く〉を使い、エルフの青年を追い抜き、風景を置き去りにする。


「邪魔だぁぁ!! 踏みつぶすぞぉぉぉ!!」


 牛頭族がドスドスと地面を揺らしながら、エルフィナと呼ばれた少女に迫るが、その間に俺が割り込んだ。


「なっ!? てめぇっいつの間にきや」

「黙れ、そして――」


 俺は一直線に向かってくる牛頭族の突進の勢いを利用し、腕を掴みながら足を払い、頭を地面に向けて垂直に落とす。


「寝てろ!!」

「ヴモッ!?」


 ズガァン! と大きな音を立てて、牛頭族の男が頭から地面に突き刺さる。犬神家ならぬ牛神家だ。

 目の前の光景に、エルフの少女はポカーンとしているが、そこに遅れてやってきたエルフの青年が飛び込んでくる。


「エルフィナ! 大丈夫か!?」

「え、あ。兄さん。大丈夫です」

「良かった……君、助かった。なんとお礼を言ったらいいか」

「礼はいいから、それよりも早く離れてくれ。ここは危険だぞ」


 後ろからは、闘牛のように怒り狂った牛頭族達が迫ってきていた。


「てめぇっ! よくもやりやがったなぁぁ!!」

「やろぉ! ぶっころしてやる!!」

「死にさらせぇぇぇ!!」


 仲間をやられ、激高した牛頭族達が一斉に俺に向かってくる。

 慌ててエルフの兄が妹を抱えてその場から立ち去るが、俺はその場に留まり、迎え撃つ。

 俺を掴もうとした手をすり抜けるように避け、腕をつかんで背負い投げ、続いて後ろを向いたまま水面蹴り、浮いた所に後頭部へかかと落としを打ち込む。

 最後の奴は大斧を構えながら突っ込んできた。斧を振るうよりも早く、懐に飛び込み、掌底を顎に撃ちこんだ。

 

 ズズゥンッ! と巨体が沈む音が兎の門に響く。

〈手加減攻撃〉を加えたので、死んではいないだろう。

 よし、満足。こういう祭りだからといって、なんでも許されると思ってる奴は許せないんだよな。

 南門付近に集まった見物客からは、拍手と声援が送られた。


「ぐぐっっ! 貴様ぁぁ! ただで済むと思うなよ……!」


 背負い投げを食らった牛頭族がゆっくりと起き上がる。ちょっと加減が甘かったか。


「別にどうでもいいんだが、お前たちもう終わってるぞ?」

「何……?」


 見せびらかすように、俺は四つの手提げ袋アイテムボックスを取り出す。

 さっきの攻撃の間に、〈スティール〉、〈ぶんどる〉、〈強奪〉、〈盗む〉を織り交ぜていた。

〈スティール〉と〈盗む〉は、相手の持ち物を一つ盗むスキルで、〈ぶんどる〉と〈強奪〉は攻撃時、追加効果で持ち物を一つ盗むことが出来る。似たようなスキルが二種類ずつ被っているが、これは覚えるジョブが違うからだ。同じシーフ系統でも、上位ジョブになればスキル名と効果が変わるからな。

 盗みを成功するには、高いDEX値が必要だが、俺は十分満たしているので難なく盗ることが出来た。普段は使わないスキルだが、こういう場合では使えるスキルだ。

 再使用時間リキャストの問題で、連続して使えないのが大きな欠点だが、連続して使うつもりはないので問題ない。


『おおっと!? 前代未聞! 開始一分で早速の脱落者です! 脱落者は『ランページ』の四人!』

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! まだ何もしてないうちに失格だなんて!」


 開幕からやらかしただろうに。あからさまにチンピラっぽい奴らでも、スタート直後は控えてたぞ。

 唯一気絶しなかった牛頭族の男が騒ぎ立てるが、完全武装の警備が駆けつけ、問答無用に引っ立てていく。

 なるほど。失格者はこうやって、警備によって連れて行かれるようだ。


「いいぞー! 兄ちゃんよくやったー!」

「あいつらには毎回迷惑してたんだ、スカッとしたぜ!」


 遠く離れた参加者達や、観客から声援が俺に送られる。

 皆も相当あいつらには迷惑してたようだな。俺もイラっと来たからやっただけだが、結果的には良かったようだ。開始早々ポイントも貰ったし。

 渡された手提げ袋アイテムボックスの中に、先ほど奴らから盗った手提げ袋アイテムボックスを入れる。

 ちょっと時間を使ってしまったが、その間にアデル達はもうマップでは見えないほど、距離を離されてしまったようだ。早く追いつかないと。

 しかし、今ので〈疾風の如く〉を使ってしまった。これは戦闘行動に入ると効果が切れるからなぁ。

 その分最初の一撃は重く設定されてるが、普通に走っただけでは追いつくのに時間が掛かる。

 仕方ない。ちょっと目立つが、もう他の参加者たちも先に行ってることだし、呼び出してもそう問題にはならんだろう。

〈疾風の如く〉を外し〈コール・ドラグーン〉をセット。


「来い! クリスタ!!」


 俺が〈コール・ドラグーン〉を発動すると、地面に魔法陣が展開される。

 さっきの出来事で注目を集めていたせいで、今度は何をするのかと観客たちが騒めく。

 見られすぎて穴が開きそうだ、とか思っていると魔法陣からクリスタが飛び出てきた。


「ぎゃおおぉぉ!!」


 召喚されたクリスタは、待ってましたと言わんばかりに高らかに吠える。


「ぎゃうう」

「おい、クリスタやめろって」

「ぎゃうぎゃうっ」


 クリスタは嬉しそうに俺に頬ずりをし、のしかかってくる。重っ!!

 クリスタの言葉は判らないが、呼び出してくれたことに非常に喜んでるようだ。

 一応動けるようになってからは、クリスタを呼び出して遠出することもあったんだが、毎回こんな感じだ。お陰で能力が戻っていない時に、押し倒されてえらい目にあった。


「クリスタ、俺を背中に乗せて、アデル達を追ってくれ。匂いは判るか?」

「ぎゃうっ!」

「よし、じゃあ頼んだ! あ、でも他の参加者達には怪我させるなよ」

「ぎゃううう!!」


 判ったというふうに、大きく鳴く、

 クリスタの嗅覚は遠く離れた獲物の匂いも直に嗅ぎとる事が出来る。以前リリンさんを見つけた時も、俺のマップの外だというのに、血の匂いを嗅ぎとり、探し当てたほどだ。いかに性能が良いGMのマップとはいえ、これには勝てない。

 俺はクリスタの背に乗り、首に捕まるとクリスタは一気に加速した。

 その速さは俺の〈疾風の如く〉以上で、最後尾までの距離がグングンと縮まる。

 その間に再びスキルをセットしなおす。

 盗み系統を全て外して、〈波動剣〉〈六道千塵〉〈震脚〉〈ソニックブレイド〉をセット。〈コール・ドラグーン〉はこのままだ。

〈コール・ドラグーン〉は発動後、追加効果で呼び出した竜のステータス上昇が付いている。

 それと、どうもスキルを付けていると、クリスタの気持ちがわかるような感じがする。元々は竜と心を通わせた者のみ取得することが出来る、という竜騎士取得クエストで覚えるスキルだ。

 その設定が生きているのかもしれないな。スキル枠的には問題ないし、つけっぱなしにしておこう。

 他のスキルは定番通りの〈武神の心得〉〈MP自動回復(大)〉〈HPMP自動回復(大)〉〈気配感知能力上昇〈大〉〉〈波動の太刀〉だ。


 スキルをセットしているうちに、最後尾をあっさりと追い抜き、人にぶつからないように走っていく。すると、草原の半ばでアデル達の姿を捕えた。


「アデル、ヨーコ、秋葉! 待たせた!」

「マサキ! クリスタに乗って来たのか!?」

「ああ、このまま全員クリスタに乗っていこう。他の奴らも同じような事やってるみたいだしな」


 俺の視線の先には、熊のモンスターに騎乗しているエルフ兄妹がいた。彼らはペアで参加だったようだ。それにしても早い。最後尾からもうアデル達に追いつくなんて。

 その他にも、ディノスライオスや、六本脚の馬に馬車を引かせている参加者も見受けられる。この狩猟部門では、このような騎獣の使用も認められており、レンタルも有りだ。

 クリスタの巨体なら、くらを付ければ四人くらいなら余裕で乗る事が出来る。

 鞍を付けるにはひと手間いるが、クリスタは頭が良いのでスムーズに付けることが出来た。

 

「全員捕まったな?」

「ああ。いつでもいいぞ」

「こっちもオッケーよ!」

「私も大丈夫です」

「よしっ、クリスタ。飛ばせ!」

「ぎゃおおおぉぉ!」


 クリスタがゆっくりと起き上がると、翼を広げてはためかせると、一気に加速する。

 街中では自重していたのだろう。クリスタは楽しそうに走る。

 クリスタの乗り心地はよく、風の影響もクリスタが放っている結界のお陰で和らいでいる。

 竜族は、効率よく飛ぶために自身に結界を張る性質を持っている。レヴィアの常時張っている水の膜とかいい例だな。

宝石竜ジュエルドラゴンであるクリスタも、成長すれば空を飛べるらしいが、幼竜の今でも凄まじい速度が出る。


 風と共に、次々と追い抜いていくとマップ上に先頭集団がやっと見えた。

 先頭を走るのは、馬の下半身を持つ狩りの名手と名高い少数部族のケンタウロス族。

 自慢の俊足を生かし、それに追いすがるように走る豹頭ピューマ族。

 そして、並ぶように自転車で爆走するイル達だ。なんで最後が自転車やねん。

 いやまぁ、イル達はアタミにいたのだから、自転車を持っていてもおかしくはない。冒険者が耐えられるように竹にも色々細工してるし、錬金術ギルドの力も借りたって話だしな。

 まだ生産数が少なく、値段が高い自転車を持っているという事はイル達は相当稼いでいるのだろう。

 自転車に跨っているのは、イルともう一人の前衛、狼人ウルシャン族の少女だ。

 あとの二人、さっきの猫耳付いているミーツって子は荷台に乗っている。

 半分寝ていたドワーフの子は、自転車の籠の中に入れられていた。何処の宇宙人だ。

 後ろから彼女らの姿を見たんだが、巧く乗りこなしてるんだよ。だがなぁ……。

 

「売っておいてなんですが……違和感凄いですね」

「ああ……、装備との違和感が凄い」


 考えてみてほしい、軽鎧を来た女性が自転車で爆走する姿を。違和感しかねぇ。

 俺と秋葉が苦笑していると、狩場である森が見えてきた。

 先頭集団は次々と森の中に入っていく。


 森の中は鬱蒼と茂っているが、クリスタでも入れそうだ。

 それもそうか。グランドラムは全長三メートルを超える巨体、そいつらが住んでいるという事は木々の間隔も余裕がある証拠。仮になくてもグランドラムは樹さえもへし折って食べてしまうらしいので、クリスタが入れる程の間隔はある。

先頭集団に追いつくべく俺達は森の中に入っていった。





「正樹さん、そっちの方はどうですか?」

「こっちの方にあったな。これでミントは大丈夫だろう」


 森の中に入って小一時間、俺達は料理に使う材料を集めながら森の中を進んでいた。

 メイン食材はグランドラムだが、他の食材は運営で用意されたものを使える。

 それでも足りない場合は持ち込みが可能となっている。

 事前に何があるかのリストは公表されているので、料理する側としてはありがたい。

 グランドラムを見つけるのも大事だが、足りない食材を見つけるのも大事なので、集めながら移動している。

 肝心のグランドラムだが、既に二体狩っている。どちらも若い小型(と言っても二メートルぐくらいの大きさ)の個体だ。

 一体は発見後、秋葉が木の上に飛び乗り、ライフルで狙撃して仕留めた。見事なヘッドショット、ビューティフォー。

 もう一体は、視界に入ってきたところで向こうも気づき、突進を仕掛けてきたので、真正面から叩き伏せた。風上に立っていた所為で気づかれた。

 倒したグランドラムは、渡されたアイテムボックスの中に入れる。

 一応狩りはしたが獣人達は大食漢なので、これだけじゃ足りないだろう。もう少し狩っておきたいので、引き続き狩りを続けている。

 その間も次々と他の参加者達も森の中に入ってくる。散策していた所為で、マップに、他の参加者達の反応が見える。


「マサキ、こっちにも探していたハーブがあったぞ。クリスタが見つけてくれた」

「ぎゃうぎゃう!」

「これなんかすごい特徴的な香りするけど……これ本当に使うの? というか食べれるの?」


 アデル達も頼んでいたハーブを見つけてくれたようだ。特徴的な匂いと伝えていたが、よくわかったな。


「それも使えるが、今日使うのはそれの種の方だな。香辛料の一つにもなってるんだぞ」

「正樹さん、ところで、何を作るんですか?」

「んー、エスニック料理に凝ってた知人から、食べさせてもらった料理を再現してみようと思う。大体の材料は覚えてるし、作り方もそう難しくないしな」


 それに、狩猟部門で振る舞う料理はとある方針で決めている。そのためには一般的に手に入りやすいものが必須だ。

 単純に勝ち進むだけなら、アタミのチート食材使えばいいだけだ。でもそれじゃ、つまらないだろう。


「マサキの料理なら期待できそうねー、あぁ……ここ最近マサキの料理食べてないから思い出したらお腹が……」

「まだ昼にもなってないぞ。これで我慢しなさい」


 早くも腹の音を鳴らしたヨーコに、手製サンドイッチを渡す。

 卵サンドにハムサンドだ。ハムの方は薄いのを何枚も重ねているので、結構腹が膨れる。これ位なら一分もあれば作れるので、城の食堂にあった材料を使って作らせてもらった。

 ヨーコは歩きながらサンドイッチを頬張り、周りを見渡す。


「んぐんぐ、それにしても、意外と見つからないわねぇ」

「そうだな……話によると多く発生してると聞いたのだが……マサキ、マップにも反応がないのだな?」

「ああ。別の反応ならあるんだが、グランドラムらしき羊の姿は全く」

「私の方もありませんね……、と言ってもマサキさんの方が性能いいから当たり前なんですけどね」

「こうなったらクリスタの嗅覚だけが頼りだな」

「ぎゃうぎゃうっ!」


 任せてーっと言った感じでクリスタが頷く。

 当てもなく進むのもなんなので、今はクリスタの嗅覚に頼りながら進んでいる。

 森は思った以上に広く、猛毒を持つジャクスネークやブロンズフロッグ、アイアンアリゲーターや鹿やジャガーなどの反応はあるんだが、肝心のグランドラムが見つからない。

 あ、クミンみっけ。ハーブ系統は材料の中に無かったからな。何とか集まったが、今度は予め屋台で買いそろえておこう。

 ハーブや、使えそうな食材を摘み取っていると、不意にクリスタが頭を上げ、鼻をひくつかせてなにかを訴えるように騒ぎ始めた。


「ぎゃうっ!! ぎゃうぎゃう!」

「いたのか?」

「ぎゃうっ!!」


 大きく頷き、首を東の方に向ける。

 マップに目を移すと、クリスタのいう通りマップの東側に真っ赤な塊が見えた。

 これは……グランドラムの群れか!


「皆、グランドラムの群れを見つけたぞ」

「何だと!? マサキ、それは本当か?」


 俺の報告を聞いたアデルは、喜びの声でなく、驚いた様子で俺に尋ね返してきた。


「あ、ああ。本当だ。マップの端にグランドラム達の群れを見つけた」

「うわっちゃー……」

「アデルさん、ヨーコさん、群れがどうかしたんですか? 絶好のチャンスだと思いますけど……」


 うん、俺もそう思う。この群れを狩ることが出来たら肉の量も毛皮の量も十二分に確保できる。


「グランドラムってね、基本的には群れで行動しない生物なのよ。気性が荒いし、なんでも食べるし、仲間同士で争ったりするわ。でもね、一つだけ例外があるの」

「例外?」

「極まれに、グランドラム達を率いる長ってのが生まれるのよ。『レッドホーン』っていうんだけど、名前の通り赤い角を持つグランドラムで、その強さは他のグランドラムとは一線を画すのよ」


 赤い角ってことは、三倍の速さで動くのか? 『レッドホーン』は指揮官を兼ねてるのは間違いなさそうだが。


「つまり、俺が見た群れの中には」

「ああ。そのレッドホーンがいるはずだ。だが、これは秋葉のいう通り、チャンスだな」

「そうね。滅多にいないけど……極上の肉が取れるって話なのよ。グランドラムには違いないから、ポイントにはなるはずよ。過去にも似たような例あったみたいだし。でもマサキにとってはこっちの方が大事かしら」

「俺にとっては?」

「『レッドホーン』の毛皮だけど、これで作ったベッドは極上の快眠を与えるらしいわ。絨毯やソファーカバーとしても最高級品で、代々の獣王が使っている王の居室で使われてる一品よ」

「よし、狩ろう」


 元から狩る選択肢しかなかったが、そんな話を聞かされたら狩るしかない。俺の、そして嫁さん達の快眠の為に。いや、決して今まで使っているベッドに不満があるわけじゃない。

 だがこう、より睡眠をよくするものが手に入るということなら、気合を入れたくなるものだ。

 睡眠は生きる上で大事な物だしな。


 全員で再びクリスタに乗り込み、目標に向けて一気に駆け抜ける。

 途中で俺達に気づいたアイアンアリゲーターが向かってきたが、クリスタの一撃で吹き飛ばされて戦いにもならず終わる。身体は空中でキャッチし、自前のアイテムボックスに入れた。勿体ないし。

 木々の間を潜り抜け、大量のマーカーが密集している所に近づくと、大きく開けた場所に出た。

 森の先は、大きな湖となっており、本来ならば様々な小動物たちの憩いの場となる場所だ。

 湖の周りには、無数のグランドラムが群れを成しており、その中心には真っ赤な角を持つグランドラムがいた。


「あれがレッドホーンか」


 視線の先には、獲物と思われるアイアンアリゲーターを貪るレッドホーンの姿が。

 鋼鉄の鱗を強靭な歯で砕き、肉を貪っている。そりゃこんなのがいたら他の動物も来ねぇわ。


 幸いにも、風向きも風下、臭いで気づかれる心配もない。

 距離は八百メートル、余裕で秋葉の有効射程範囲だ。

 レッドホーンを狩るためにも、まずは周りの邪魔なグランドラム達を倒そう。


「秋葉、まずは先頭の奴らから吹き飛ばしてくれ」

「判りました。狙いは頭で?」

「そこは任せる」

「はい。それならこの子ですね」


 そういうと、秋葉の手にスコープ付きの対物アンチマテリアルライフルが現れる。

 ちょっと〈鑑定〉させてもらったが、この銃はM82A3と呼ばれるスナイパーライフルで非常に高い威力を持つセミオート式の対物アンチマテリアルライフル。

 帝国で使っていたライフルもこれで、ミスリルの鎧すら打ち貫く威力を持っており、秋葉の愛用するライフルの一つだ。

 これならグランドラムの強靭な毛皮も突破できるだろう……ミンチなるかもしれんが。

 秋葉はスコープを覗き込み、静かにタイミングを見計らう。

 俺達は息を潜め、空気を読んだのかクリスタもじっとしていた。


 ――ドンッ!!


 強烈な発砲音が起き、足元の蛇を貪っていたグランドラムの頭がはじけ飛んだ。

 それを合図に、俺達はグランドラムの群れに向けて、駆け抜けていった。



感想、評価ポイントを頂けると、大変モチベーションの意地に繋がりありがたいです。

あっさり目にやると思ったら前後編に別れる始末。調理は次回に持ち越しになります(多分)。

羊肉はシンプルに香草焼きで食べるたら美味しかったですね。

しかし、最近は肩こりがよりひどくなってて……これは整体でも行くべきでしょうかね。

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