狩猟部門
お知らせ:感想で教えてもらい気づいたのですが、81話「囚われの人々」において、傷ついたエルフ、リリンの事に関して。ルームに逃がしていたのに、屋敷に残していた。という盛大な勘違いにより、ストーリー上の問題が発生しました。一週間も『ルーム』の中で軟禁は大問題の上に前後の話がおかしいと思いましたので、「囚われの人々」のリリンに関する所を少々変更しました。大変申し訳ございません。今後はこういった事が無いように、心がけます。教えて下さり有難うございました。
俺が参加するのは、闘技部門と対を成す狩猟部門の方だ。
狩猟部門は狩りを中心とした大会で、指定された獲物を狩る競技だ。速度、大きさ、そして調理といった三つのポイントを加算し、チームで競い合う。しっかりと食うところまではいるのが獣王国らしいと思う。
審査員は数多くの種族が招かれている。その中で特に味にうるさいのはエルフやドワーフ達だ。
彼らは長い年月を生きる中で楽しみの一つが食事だ。
エルフは菜食主義者、なんてことはなく、何でもよく食べるようで、長い寿命を生かして様々な料理を食べ歩きながら見聞を広める者もいるようだ。エルフの冒険者は大半がそうだと聞いた。
その中で、料理に目覚めたエルフも少なからずおり、彼らのお陰で獣王国の食文化は飛躍的に発達している。
ドワーフも同じだが、基本的に酒であることは言うまでもないが、同じように好きなのは甘味とのこと。
俺が狩猟に参加すると聞いたシーザーは腕を組み、残念そうにしていた。
「むう、てっきり闘技に出ると思っていたのだが……」
「申し訳ない。俺はどちらかというと、こっちの方が楽しそうだったので」
「なるほど。マサキ殿と戦えると思ったが、残念だ」
「申し訳ない」
「いや、いい。狩猟もまた見応えがあるものだからな。ただし、審判もいる闘技と違い、狩猟は主に森の中で行われる。狩猟は狩るか狩られるか。勿論それは参加者同士も含まれる。一筋縄ではいかんぞ」
「わかってますよ。まぁ、それなりの結果を出せるようには頑張ります」
「ふふ、目指すは優勝。とは言わんのか?」
「参加する以上は目指すようにはやってみますが、積極的に目指そうとは思ってませんね。いかんせん目立ち過ぎたので……」
「ふむ……不思議に思ったのだが、なぜそう目立つのを嫌がるのだ? ツカサなどは自ら率先して人目に立っているぞ」
「そういう性分なんですよ。あんまり目立ち過ぎて、余計な問題を抱え込みたくもないし、今回は単純に祭りを楽しむのが目的ですからね」
純粋に祭りを楽しみたい身としては、目立つのは出来るだけ避けたいものだ。
司は逆に目立つことで楽しんでる方だな。あれはあれで楽しそうだが、俺の性分じゃない。
「そうか。そういう者もいるのだな。何はともあれ、マサキ殿の健闘を祈っているぞ」
「ええ、そちらも……恐らく今回の大会は一人かなり強い人が混ざってると思うので、頑張ってください」
「ほぅ、マサキ殿がそういうとは。これは期待できそうだ」
シーザーはニヤリと嬉しそうに口元を歪めていた。
武人らしく、強者との戦いには飢えているのだろう。
間違いなく、期待には添えるはず。
さてと、そろそろ移動しないとな。確か狩猟は南門で行われるはずだ。
「それじゃ、俺達は行ってくる」
「うむ、頑張るのじゃぞ。応援しとるぞ」
「マサキ……おにーさん。頑張ってください……ね。後で、応援……行きますから」
「情けない戦いしたら許さないんわよ!」
「マサキ君、部門は違うが、互いに頑張ろう」
レヴィア、フェン、アリスにネメアーとはここで別れる。
レヴィアとフェン、アリスはここで見学だ。後で人の波が落ち着いたら、グリフォンを使って狩猟会場に見学できるようになる。
ネメアーは闘技に参加する。シーザーの期待に副える一人だが、俺がシーザーに言った人物はネメアーの事じゃない。
今回の大会に、ネメアーの師匠である聡さんも参加しているのだ。
狩猟のエントリーを出しに行ったとき、偶然だが聡さん達と遭遇したんだ。
聡さんはリナさんとリリンさんの三人で来ていた。
リリンさんの怪我もすっかり治っており、その日は聡さんの付き添いで闘技場に来ていた。
リリンさんは獣王祭の祭事にも出る予定だったので、里に戻らずに獣王国に留まり続けていた。
長い間、獣王国に住んでいた聡さんだが、今まで獣王祭の競技には参加していなかったようだが、今回は参加するらしい。
「聡さんが今まで闘技に出ていなかったのは意外でしたね。てっきり常連かと思ってました」
「そうかね? 確かに私は戦うのは好きだが、余り手の内を明かすと貴族の干渉が五月蠅そうでね。それで参加を控えていたのだよ。しかし、少々参加しなければならない事情も出来たので、今回参加することにしたのだよ。一回くらいは参加するのも一興だろう」
穏やかな笑みで闘技のエントリーをしていた。
対戦相手の皆さんには合掌。俺も闘技に参加するかは悩んだけど、参加しなくて本当に良かったわ。
真面目に言って勝てる気がしない。
魔法ありならいくつでも手はあるが、闘技では魔法は全面的に禁止だ。
あくまで力と力のぶつかり合いを主とした大会だからな。
他の参加者たちに置いて行かれないように、アデル達を引き連れ闘技場から出る。
他の参加者に混ざり、南門に通じる道を進んでいくと、来客席で見かけた狼人族の若い長が俺に並んだ。
「おい、人族。まさか、その女達が貴様の仲間だというのか?」
「ん? そうだが何か?」
「ふん、闘技と等しく狩猟も険しい戦いになる。自分の女が大事なら、とっとと辞退することだな」
「ほぅ、心配してくれてるのか?」
「な、なにを馬鹿な事を言っている! 決して女が傷つく姿を見たくないという訳ではない!」
お前はツンデレか。あからさまに女の心配してるじゃないか。
下種な目線で皆を見ているならともかく、こいつの眼は俺だけを見ていた。口は悪いが、性根は悪い奴じゃなさそうだな。
「まぁ、心配は無用だ。ここにいる三人は腕には自信があるからな」
「そうか。せいぜい無様な姿を見せないにするんだな」
「そうするよ。ところで、名は? 俺はマサキだ」
「……ニールだ」
そういうと、狼人族のニールはそっぽを向きながら速足で俺から立ち去っていく。
ニールに付き添っていた従者らしき老年の狼人族が、俺に向けて軽く頭を下げる。
「うちの若様が、大変失礼な事をし、申し訳ございません」
「いや、気にしてないから大丈夫だ。俺の仲間達もそんなに気にした様子でもないしな」
「そうですか。ですが若様のいう通り、狩猟部門は闘技よりも一筋縄ではいきません。荒くれ者も大勢参加しております。当然ながら、大会に乗じて不埒な事を考える輩も少なからずおりまして、私と若様も、昨年の大会でも女性の参加者達が執拗に狙われたところを見ております。森の中に入れば、警備の眼も届きません。若様のいう通り、辞退するのも手だとは思いますが……」
シーザーが言ってたのはこの事か。狩るのは獣やモンスターだけではない。当然ながら、参加者同士の狩りも含まれる、そしてそれは、狙いやすそうな女性に向けられる。
ニールが俺に突っかかって来たのも、その時のことが原因なんだろう。
「と、言ってるが。皆どうする?」
「決まっている。襲い掛かってくるのなら、迎え撃つまでだ」
「ええ、そうね。どっちが狩る側か教えてあげましょ」
「ですね。二度と襲えなくなるよう、キツイお灸をすえてあげましょう」
ははは。うちの女性陣は頼もしく、怖い。
こりゃ、やり過ぎないように気を付けないといけないな。……俺も含めて。祭りとはいえ、うっかり殺してしまったらダメだろうしな。
「との事だ。本当に心配してくれるところ悪いが、この通りやる気満々だ。実力もそれに伴った力を持っているから、安心してくれ」
「どうやら、そのようですね。要らぬ心配だったようです」
「シヴァル! いつまで喋ってるつもりだ。さっさと来い」
ニールの怒鳴り声が聞こえた。大分離れた所で従者の爺さん、シヴァイが来てないことに気づいたようだ。
「はい。今行きます! では、私はこれにて失礼します」
「ああ。そっちも頑張ってくれ」
そういうと、シヴァイは俺に再び頭を下げて、早足でニールの下に向かう。その足取りは老年に差し掛かっているとは思えない程、軽い。
「マサキ、シヴァルといったかあの者。気付いているか」
「ああ。かなり出来るな」
「え? そうなの?」
「ああ。これだけの人混みなのに、全く人にぶつからずにもうニールの下に辿りついている。それに、俺と話している時にも思ったが、全く隙が無かった」
「はい。私も見てましたけど、感じる気配というのかな。そういうのがシーザーさんとか、竜馬さんに近い感じがしました。一番近いのは、聡さんかな」
「ああ。それは思った。聡さんが一番近い」
「へー……みんなよく見てるわねぇ……私、全然わからなかった」
ヨーコは基本的にゴーレムを使う戦法だし、後衛だから仕方ないだろう。
同じ後衛でも、秋葉の場合は敵の動きをよく見てスナイプするしな。エイム(予測射撃)は、FPS系統で勝ち上がろうと思ったら必須技術だ。勿論、それだけで勝てるような甘いゲームじゃないけどな。
そんなことを考えながら歩いていると、狩猟の会場である、南門にたどり着いた。
誘導員の指示の元、一列に並びながら、周りを眺める。
エルフだけで組まれたパーティーもあれば、獣人達で組まれたパーティーもいる。ガードル達のように獣人とエルフが混在したパーティーもいるな。一つの種族だけで組まれたパーティーはその種族代表で、混成パーティーの大半は冒険者のようだな。
その中でひときわ目立つ一団を見つけた。
闘獅子族だけで組まれた女性パーティーだ。
闘獅子族は、獣人達の中でも珍しい女性が率先して狩りをする種族だ。男はヘイトして里や家族を守り、女性が狩りをして調理をする。
その一団の中で最も迫力を感じるのは、筋骨隆々の身体、太陽に照らされ光り輝く毛皮、背には巨大な大剣を持ち、全身には歴戦の後らしき傷跡が幾つも見える。
「おい、見ろよ。あれって去年優勝した……」
「ああ。『雷光』のラジャだ」
どうやら、彼女は去年の狩猟部門、優勝者のようだ。
彼女の圧倒的な存在感に押され、彼女の周囲だけ空間が開いている。
列はちゃんと詰めてください。なんて言えるわけがない。
「お、マサキもこっちに参加するのか」
後ろから声を掛けられて振り向くと、ガードル達が俺達の牛に並んでいた。
「ガードルか、そっちも狩猟に参加するんだな」
「ああ。本当は闘技に出ようかと思ってたんだが……聡さんが参加するってことで諦めた」
まぁ、聡さんの実力を知っていると、気持ちはわからなくもない。
それよりは、まだ芽がある狩猟に出た方がマシという訳だ。どっちも上位入賞者には賞金か、それ相当の褒賞がもらえるからな。
「しっかし、こっちはこっちで『雷光』のラジャにマサキか……。正直、どっちでも変わらなかった気がする」
「なぁに弱気な事言ってるのよ。この馬鹿ガードル。そんなんじゃ勝てるものも勝てないでしょ! やるからには目指せ、優勝くらいは言いなさいよこの馬鹿!」
エリスは弱気になっていたガードルの背中を勢いよく叩く。
あまりにも勢いが強かったせいか、ガードルが思いっきり地面に叩き付けられた。
「なにするんだよこの馬鹿力!」。「五月蠅いわね! 男が細かい事いうんじゃないの! この馬鹿ガードル「バカバカ言うんじゃねぇよ! 暴力兎!」「なんですって! 誰が暴力血祭兎よ!」「そこまでいってねぇ!?」と言い争いというか、いつも通りのじゃれ合いを他所に、そっとグンアがアイテムボックスから一本の棒を取り出した。
「マサキさん、依然借りたこの武器をお返しします。あの時は有難うございました」
「あー……。そういえば、貸したままだったな」
「はい。このスタンバトンのお陰で、窮地を乗り越えることが出来ました。貸してくれてありがとうございます」
「いや、いいよ。その武器はグンアにやるよ」
「えっ!? いいのですか!? こんな凄い物を……」
「凄いといっても……試作品の一つだからな。俺が持ってても死蔵するだけだし、グンアが良かったらそのまま使ってくれ」
スタンバトンより強い武器は沢山持っているからな。
俺が持つよりも、そのままグンアが使った方がいいだろう。
そう簡単に武器をやるのは本当は良くないんだが、ガードル達は成り行きで会った俺達の為に戦ってくれた戦友だ。これ位はしてもいいだろう。
「有難うございます!」
「それで、シブラにはこれだ」
「え? 私にもー?」
シブラには、『エアリアルボウ』を渡した。
この弓は風属性が付加されている魔法弓だ。矢を放った問、時々風属性の追加ダメージを与える。更には一日一回限りだが、特殊スキル〈トルネードアロー〉を放つことが出来る。
トルネードアローは防御力無視の通常攻撃の四倍ダメージを与える。使い手の腕次第では、ミスリルの鎧でも鱗でも穿てるだろう。シブラならきっといけるはず。
「おー……なんか力を感じる。こ、これ本当に貰っていいの?」
「弦だけを渡すのもなんだと思ったからな。それに、俺は弓を使わないし、構わないさ」
一応希少武具の部類に入る武器なんだが……在庫がまだ五個もある。
この弓、特殊フィールドの宝箱でボロボロ出るんだよ。レア枠には入るんだが、物欲センサーが発揮しすぎてこればかり出た。
そのうち一つは既に、円卓の海賊団の弓使い、トーリに渡している。身内の強化は最優先です。
シブラは貰った弓を目を輝かせて眺めていた。
そんな事をしているうちに、俺達の順番になった。
「次の方、番号札をお願いします」
「はい。四五八です」
「……確かに」
エントリーした時に渡されたこの札が参加権となっている。この札は割符の役割も果たしているんド絵、偽装は難しい。
「この箱の中に手を入れ、木板を一枚引いてください」
「ああ。……兎か」
「兎ですね。マサキ様は、兎の門へお願いします」
狩猟は闘技と比べ参加者の人数が遥かに多いので第一次予選は、熊、獅子、兎、鳥と四つのグループに別れ、ポイントを競い合う事になる。各グループの上位四チームが第二次予選へと進むことが出来る。
ガードル達は、鳥。前回優勝のラジャは熊か。さっき絡んできたニールは……鳥のようだな。
受付の指示の元、俺達は兎の門に進む。
こうして、獣王祭の双翼に担う大イベントの一つ、狩猟部門が始まりを告げるのだった。
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感想で言われて初めて気づいたのですが、もうこの作品も100話超えてたんですね。ここまで続けることが出来たのも、皆さんのお陰です。誠にありがとうございます。
さて、狩猟の始まりです。
さぁ、砥石の貯蓄は十分か。――狩るのは俺で、狩られるのは貴様だ――。
闘技の方も要望さえあれば、描こうかなと思っています。




