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幕末ハーレム  作者: 八咫鴉
3/4

攘夷と誠を背負う者


「へい!兄ちゃん!団子だ!」


「どうも」


やたら気前のよく、ガタイのいい団子屋の店主であるオジサンから貰った団子を食わえてある人を待つ。


口に含んだみたらし団子は甘味が引き立ち、モチモチの団子と絡まって美味を生み出す。

なんとも美味しい間食だ。


すでに幕末に来て4ヶ月。季節は暑苦しい夏。

しかし、いつもの江戸は人気は変わらず、若男女、武士から商人などが出入りする。


さすがは当時人口世界一の都市、江戸だ。目の前を荷物を背負って走る飛脚が通り過ぎたり、ザルや柄杓を売り出歩く商人も通ったりしている。


特に日本橋は朝夕構わず様々な人がその巨大な橋をかける。

その下の日本橋川には荷物を運ぶ女性がこちらに手を振ってきた。

その返事としてこちらも手を振ってやる。

知らない女性だったが袖触れ合うも他生の縁というのか、その文字通りの日常だ。


ここで4ヶ月生活して分かったのはここは俺の知っている幕末ではないということだ。

武家社会ではあるが男尊女卑はなく、女性は一部を除く職に就けるということだ。


男女平等、それがこの世界の理のようだ。


「お~い健!」


そんな男女平等の世界でお世話になってるのは幕末の維新志士、坂本龍馬だ。


若干赤毛のかかったぼさぼさの長髪をポニーテールにして束ねている。

腰には愛刀の"陸奥守吉行"の大刀と小刀を帯びてこちちへ走ってきた


「ようやく来たか」


「すまんのう。ちと遅れてしもうた。許しちょくれ」


今はこの女龍馬の家に居候している。年頃の男女二人が同じ屋根の下とは如何わしいと思うが自分を心配してくれた海舟の提案だ。


そんなこんなで龍馬の家に居候だ。


今日は二人で江戸を散歩だ。龍馬の日課らしく、こうして江戸に住む人々と触れあってるのだ


「さて、行くか!」


「ああ」


というわけで散歩を始める。











「それでな、この前も外国人が斬られた事件が遇ったじゃき。薩摩藩の大名行列を横切った外国人に刃を差し向けたのもんだから薩英間の仲は崩壊ぜよ」


「ふむふむ。」


大雑把な性格なのに説明はご丁寧だ。以外にもわかりやすく、頭に記憶しやすい。


なんとも律儀な奴だ


「あら、坂本さんじゃない。」


龍馬には顔馴染みが多い。すでに声をかけてきたのはこの人で22人目だ。


どこかのご婦人なのか少しシワが目立つ。


「ん?おお!菊さんか!」


「こんな日高い時にそちらの殿方と逢い引き?そろそろ坂本さんも嫁入りの時期だしねぇ」


「いやいや!?こいつはただの居候!わしとはなんも関係ないぜよ!」


「関係ないならそんな頬を赤くして否定しないわよ。もしや坂本さんにも男の人が?」


「ち、違う!だからこいつは・・・」


なにやら二人して盛り上がっている。とはいえ、ご婦人はからかうように、龍馬は頬を赤くしながら手をブンブン振り回して慌ててる。


ようやく話が終わったのかご婦人は満足、龍馬はグッタリして戻ってきた。


「おい、龍馬?」


「う、うるさい!さっさと行くぜよ!ほら!」


「あっ!ちょっ・・・」


そしてその場から逃げるように立ち去る。別れ際にご婦人が『頑張ってね』と言ってたがそれが気になってしょうがない





「・・・」


「なあ、どうしんだよ龍馬。お前らしくないぞ」


あのご婦人と別れてからなにやら龍馬の様子がおかしい。

チラチラとこっちを見てはプイっとあらぬ方向を見るの繰り返しだ。


(こいつにだけはこんな顔見せられるかってのよ。)


龍馬は赤いに満ちた顔を必死で隠す。それは照れてるようで恥ずかしがってるようだ。

まさに乙女の表情だ。


(そういや、こいつわしには優しいな)


この4ヶ月、彼は居候として我が家に招いた。最初はなんともなかったが彼が居候として働かなければと手伝いを求めるようになった。しかも、家事は万能でてきぱきと働く。暫くは主夫として見てたが段々、男として見るようになった。

それからこの胸の高鳴りが妙に癪になっているのだ。


そんなもやもやを秘めながら歩いてると前方の通りで複数の影が慌て動く


「どこへ逃げた!」


「奴を逃がすな!重要な証人だ!」


向こうで強面のお兄さん達が十手やさすまたを手に、辺りを見回して何かを探している。

あの人達はたしか俺と龍馬が会った時の役人だ。


するとそのリーダー格の役人が俺らに気づいたようでこちらへと歩いてきた。


「お前らはたしかあの時の・・・」


「はぁ・・・。」


「そう怖い顔するな。そちらの嬢ちゃんの言う通り勝様のご知り合いのようだったな。今ごろ捕まえようとは思わん。ところでこの辺りに怪しい奴は居なかったか?」


「怪しい奴?知らんな。」


「そうか・・・。もし見かけたら南町奉行所に連絡してくれ。」


「なにかあったんですか?」


やけに騒々しいので質問をぶつけてみる。すると役人は苦々しい顔で語り出す。


「どうやら人相書によく似たとういう攘夷志士がこの辺りに逃げ込んだと連絡があった。お前らも気をつけろよな。行くぞぉ!」


「はい!」


忠告を最後に役人達はその場から立ち去る。


しかし、指名手配犯か・・・。


この時代、写真などという特定の人物を分かりやすく表示出来る精巧な物はなく、すべて絵で写し出さなくてはならない。そのため、人相書に描かれた絵だけでは犯人を探し出せるのは難しい。その犯人の顔に大きな特徴がなければもっと捜索は難航するだろう。


「近頃は物騒になったもんよ。攘夷だの、異国を追い払うなどとうつつを抜かしちゅうは剣を抜く馬鹿者が多くなったじゃき。役人様もてにあわんのう。」


今年は攘夷が盛んらしい。あちらこちらで幕府の上官達が襲撃に遇い、先程龍馬も言ったように外国人が斬られる事件が多発している。

そして龍馬が言ってた事件とは、


生麦事件


教科書で知ったものは多いだろう。1862年8月21日、神奈川県生麦村で視察に来ていた英商人リチャードソンら4人が薩摩藩の行列を横切り無礼討ちされた。

リチャードソンは死に、3人は軽傷を負う被害が出た。この事件をきっかけに薩摩と英国の間には火花が飛び散り、薩英戦争にも影響するものとなった。


どれも教科書で習ったことだ。だが、この世界では現実と化した。


一応、歴史通りに進むってわけか。


身近で年代に進んだ事が起こるというわけだ。平和に暮らしていた青年の日常では到底味わうことのない風景だ


「悪いがちと待っててほしゅうのう。厠に行ってくるから」


「年頃の女がトイレに行くとか宣言するな。」


そんなことをぼやきながらも彼女を待つ。

自由気ままな性格なのでその辺の厠で用をたすような女だ。少しは恥じらいをもってほしいもんだ


「あっ、団子全部食っちまった。」


あまりに美味しいもんだから食べるペースが早かった。結構買ったのにもう無くなってしまうとはそれほど美味しい団子だと改めて実感する。


『・・い・・・は・・・まし・・・』


『も・・・だ・・ち・・』


怪しい会話がかすかに耳を撫でる。

長屋の物陰にこそこそと隠れては移動して会話している怪しい男二人がいる。

見たところ武装していないので町民か商人のどちらかだろう。


気になるので憑けてみる。


『それで旦那様は何と?』


『結構は週末だそうだ。奴の別荘で一人の時に襲撃をかける。これで奴さんもお仕舞いだぜ』


『へへへへ。』


これは・・・攘夷活動か?


聞くからにテロ攻撃を模作しているしか見えないので確実に攘夷志士だろう。

しかも、別荘ということは幕府の要人を始末するということだ。これはいち早くさっきの役人に教えたほうがいい。


早く龍馬に知らせなきゃ・・・


チュー


すると足元をネズミが這い寄る。突然の出来事におもわず、


「うおぉ!」


「何者だ!」


口が開いてしまう。

なんで俺は見つかる率が高いんだ!龍馬と会ったときの戦闘でも見つかったよな!


「貴様!今の秘め事を盗み聞きしていたな!」


「いえいえ!してません!」


「嘘言うな!死人に口無し、ここで切り捨ててくれるわぁ!」


「なら聞かないでくれる!?」


とはいえ、ここで死ぬのはごめんだ。ここはボロボロの長屋が立ち並び、人も少ない。助けを呼ぶのは無理だ


なら戦うしかない。


その近くにあった木の棒を持っては構える。一応剣道をやっていて全国大会でも優勝したことはある。中学生の頃だし、高校からは医者の道を進んだけどな


「ふん!そんな木の棒で何が出来る!ガキの浅知恵か」


バカにすんじゃねぇぞ!ひのきの棒だぞ!ドラクエでは結構役立つもんだぞ!多分・・・


「死ねぇ!」


「うわ!」


とにもかくにも木の棒を振ってみる。するとどうだろう。木の棒は襲いかかる刀をすり抜けて男の肩部に直撃した。

あまりのことに両方の陣が驚く


「なかなかやるな!」


俺ってすげぇ!まだ腕は落ちないか!


立て続けに刀を振り回してくる男から距離をとる。相手は鉄器、こちらはただの木の棒だ。剣を交わえばその鋭き切れ味に木の棒は一刀両断されてしまう。ここは回避を専念しよう


「おらぁ!」


「うわ!」


横へ一閃。バットを振るかのようなスイングを魅せては健を殺しにかかる。


そして避け際に木の棒で膝をおもいきり叩いてやる


「ぐぅ!」


その男はおもわず悶絶している。右膝を抑えては鋭い眼光を差し向ける。


「何をしている!相手はガキ一人だぞ!」


「うるせぇ!俺に口出しするな!」


自分達が年下に劣ってるのが恥なのか、イライラと怒声も混じった大声で喧嘩している。


「いたぞ!あそこだ!」


すると向こうの長屋の角から複数の男女がこちらへと走ってきた。

男女は全員が浅葱色の袴姿で男が羽織って勇壮、女が羽織って凛々しく見栄えている。


各々が額に鉢巻きを巻いている。そしてその鉢巻きにはこう書かれている。


『誠』と。


あれは・・・


そう考える間もなく、その男女達はぞろぞろと俺らを囲んでいく。

手には刀、その業物を携えて剣を差し向ける


「くそ!新撰組だ!」


「え?新撰組?」


あの壬生の狼と吟われた幕末の武装警察組織。浪士や倒幕志士により治安の悪かった幕末を制するために置かれ、主に捜索、捕縛、あるいは粛清を決する警察だ。


漫画、映画などにも主役を飾ったりしているかなり有名な集団だ。

幕末好きとしてはかなり興奮してます


「尊攘派志士とお見受けする!覚悟ぉ!」


「くそ!あのガキは後回しだ!逃げろ!」


二人の男は尻尾を巻いて逃げていく。それ続いて新撰組も彼らの後を追い始めた。


「俺は・・・どうするかな」


「おい、そこの」


後ろからやけにイラついた声がする。


振り向けばそこには短めに切り揃えた髪の女子と少年のような風簿をした女子がいた。

やけにイラついた声は背の高い女子だろう。顔でイラついてると分かる


「見たところ武士ではないようだが・・・てめぇもあいつらの仲間か?」


疑われてるよこれ。間違いなく俺をさっきの男達と仲間だと勘違いしてるよ


とはいえ、冤罪で捕まえられるのも嫌なので否定する。


「違う違う。俺はあいつらに殺されそうになった可哀想な民間人だ。」


「ほんとかぁ?オレらから逃れようと嘘ついてんじゃねぇのか?」


ダメだ。話を聞く気がない。というより、疑うならさっきの質問はなんだったんだ。

しかもオレッ娘。かなり萌える!


「ほんとだ。知り合いと居たんだがさっきの奴等を見かけて追跡したら見つかって斬られそうになったんだ。嘘はついてない」


「そうですよ~。ほんと土方さんは人を疑いますよね。見合いの席でも他人の素性を調べる不躾野郎ですもん。」


「おい総司、ちょっとこの刀の切れ味試す実験台になれ。なに、痛くはしないから、なぁ?」


「嫌ですよ~♪ボク、斬られるより斬るほうが性分に合ってますもん」


土方?総司?


それってもしかして・・・


「あ、あのつかぬことをお聞きしますが・・・。新撰組副長土方歳三と沖田総司でございますか?」


「てめぇ!なんでオレらのことを知ってる!」


怒らせてしまった。しかしそれよりも興奮してます。


目の前にいるのは新撰組鬼の副長こと土方 歳三と新撰組一の剣豪こと沖田 総司。

どちらも新撰組を代表する武士で新撰組の顔役でもあるからな。知らないほうがおかしい。


「まあまあ、土方さん落ち着いてください。」


ここで総司が仲裁に入ってくれた。そっちの短気とは大違いだ。


「ここはボクが斬りますよ。新調した刀を試したいしね」


前言撤退。こっちもはた迷惑な奴だ。しかもおもくそ殺り合う気だ。


「さて、ここで斬られるか、ボクらに付き合うか、どちらがいい?」


「付き合います!ぜひ付き合わせてください!」


死にたくないので同行される。厠に行ったきりの龍馬にはなんて言おう。








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