死後
「やっぱ幕末はいいわぁ~」
歩きスマホならぬ、歩き本読みをしながら歩道を一人で歩く。
手に持っている書物は幕末関係の本。幕末の英雄や政治の流れなど、当時の主観になって描くマニアックな雑誌だといえる。
俺、柴崎 健は幕末好きの大学生だ。医療関係の大学に通っているため、電車の中で読む本をこうして定期的に買っている。
父親が開業医だからその血筋だと思うけど幕末好きは母親の血筋かもしれない。
小学生の時は歴史のテストは大抵100点だった。幕末に限るけど
「ふむふむ、坂本龍馬暗殺の犯人か・・・」
見開きで掲載されているのはかの有名なミステリーの一つ、坂本龍馬暗殺のことだ。
京都見廻組犯行説、新撰組説、なかには西郷隆盛説など、どんどん疑心暗鬼な方向へといってしまっている
まあ、幕末好きとしては生涯一番知りたいよな
例えるなら戦国マニアが織田信長暗殺の犯人を知りたがってるようなもんだ。
それだけ俺は幕末が好きなのだ
死んだ転生するならやっぱ幕末だよな
フラフラと蛇行してながらも家の方向へ歩いていく。
その時、気がついた。赤信号のまま横断歩道を渡っていることを。
そして我にかえったときは赤い液体ぶちまけて道路に叩きつけられている
「・・・あれ?」
視界がボンヤリしてる。頭が痛い。全身もだ
薄れゆく意識のなかわかったのは自分が車に轢かれて死にかけているということだけだ。
(ああ・・・まだ全部読んでねぇ)
死にかけているというのに幕末本のことが頭から離れない。
そこで彼の意識は途絶えた
「・・・ありゃ?ここは?」
気がつけば真っ白な空間。いやいや、比喩表現とかそういうのじゃないから。本当に白いだけだから
「ほっほっほ。気がついたか?」
いつからいたのだろう。ヨボヨボのお爺さんがあぐらをかきながらこちらを見ているではないか
「誰?」
「うむ。ワシはこの世界の神じゃよ。」
「神様?」
嘘っぽい。端から見れば亀〇人のコスプレをしているおお爺さんにしか見えない。
「まあ、信じなくともよいわ。神は不完全であるからこそ神の本来の意味が生まれる。完全な神など存在しないからな」
「はあ・・・。で、その神様がなんのようだ?」
「話をかえよう健。お主は死んだ。交通事故でな」
「・・・やっぱりか」
気を失う直前に死ぬだろうなと自覚していた。死ぬのはそんなに恐くはなかったが少しばかり後悔が残る
「それではな。実の事を話すとあれは部下のミスなんじゃよ。」
「・・・へ?ミス?」
「うむ。部下がミスしたせいで本来死ぬはずでないお主が死んでしまった。これはワシら天界の不届きだ」
「それで?このまま地獄行きか?」
「いや。お主の死はこちらのせい。お主をこのまま地獄に送るのは無理だ。それでワシから提案がある。」
「提案?」
「うむ。お前が望む世界へ送ろう。ファンタジー、SFなど好きなところへな。どうだ?」
「おう!それならいいぜ!」
望む世界か・・・。それはすでに決まっている。前から生きたいと思っていたところだ
「幕末だ。幕末以外考えられない」
「そうかそうか。幕末か。よし分かった。特別に得点をつけてやろう。なに、ワシからの餞別じゃよ」
と、ここで再び意識が薄れる。眠気が襲ったかのようだ。
「向こうでも達者でやれよ」
それが耳に届いた最後の言葉だった。