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ルーちゃんことルーヴァンスは、少々の沈黙のあと、視線をミッシェルへと向けた。
「何でしょうか?」
「やんちゃしちゃダメよ。ね?」
ミッシェルはティーカップを置き、ニコリと微笑んだ。
笑顔が他者へと与える印象は柔らかい。しかし、その視線からは言葉以上の何かが、圧力のようなものが感じられた。
二者間にほのかな緊張のかおりが漂った。
(……ママとヴァン先生って仲良かったっけ?)
セレネはルーヴァンスとミッシェルが見つめ合う様子だけに注目し、不満げな表情を浮かべて考え込んだ。
考えに考えて、一つの結論に至る。
(……ま、まさか……)
少女は驚愕に瞳を見開いた。
(不倫!?)
不穏な単語を思い浮かべ、青ざめた表情で立ち尽くした。
想い人と母親が不道徳な関係にあるとなれば、なるほど思春期の少女としては絶望に顔色を悪くするのが道理というものだ。しかし、当然ながら彼女の妄想は事実ではなく、ミッシェルもルーヴァンスも睦言などささやかない。
まったくもって無駄な心労を抱えていた。
そのような娘には特に何も言わずに、ミッシェルはあっさりと紅茶を飲み下す作業に戻った。
話は終わりのようだ。
ルーヴァンスは嘆息してからスッと一礼した。仰せのままに、といったところだろう。
セレネはやはり、あたかも女王と騎士のようなその様を不満げに見つめていたが、マルクァスがブルタスを伴って食堂を辞したことに気付き、頭をブンブンと振った。
私事に頓着して重要な情報を取りこぼすわけにはいかない。
「では、ママ。失礼いたします」
セレネは深く一礼してから、マルクァスの後を追った。
ルーヴァンスもまた彼女に続いた。
食堂には数名の使用人と、紅茶を優雅に口に運ぶミッシェル=アントニウスのみが残された。




