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「……ひねくれすぎてない?」
若者の素直なコメントが響いた。
くすりと、諦観者が苦笑した。
「ええ。そうですね。けれど、一度信じてしまえば、人はそこから中々抜け出せなくなる。そういうものではありませんか?」
信じた事こそが事実と成り、信念と成る。
年若いヘリオスであっても、心当たりはあった。素直に頷く。
だが、今のルーヴァンスは、彼の言うところの世界に逆らっていた。それはつまり、なるようになる未来ではなく、そうなって欲しい未来を目指していることを意味する。
このまま何もしないでいれば、人界に魔が蔓延り、恐らく、人は死に、国は亡び、世界すらも荒廃する。それを是とするのがルーヴァンス=グレイだった。
けれども、彼はここに居る。
「最初のオレの質問、結構いい聞き方してたみたいだね」
呟いてから、ヘリオスが改めて訊ねた。
「ルーせんせえはなんで、ここにいるの?」
やはり、ルーヴァンスは考え込んだ。しかし、先ほどの思索とは異なる。
彼は部屋の壁を――セレネの部屋の方向を見つめて、微笑んだ。
「それはティアが――トリニテイル術が、人を救ったからです」
精霊が神の力を人界へと引き込み、神の力が人を救う。それ即ち、神の意志が、世界が、人の希いを受け入れた結果だと言えた。
イルハード神は人界を、人が望まぬ形で創った。
けれど、必ずしも、そのような望まぬ形のままにするとは限らないのだと、ルーヴァンスは知った。
神が人を救うこともあるのだと、知った。
「人の声が、心が、そう望むように、この町が在れるというのなら――」
この国が、この世界が、そう在れるのならば、彼は望むのだろう。
望む未来を、望む世界を、心のままに望むだろう。
「僕は未来への転換点にいたいのです」
しんとした静けさが部屋を満たした。
ルーヴァンスとヘリオスがが真剣な表情で見つめ合い、一転、緊張を解きようよう笑った。
「あっはは。なんか、思ったより真面目な話になって、オレびっくりしたよ」
「ええ。濃密なボーイズトークです」
とっくにボーイを卒業した輩が、楽しそうに言葉をこぼした。彼は窓辺に寄ってふと夜空を見上げた。
闇夜には星々が煌めき、月の雫が落ちている。
圧倒的な闇に比べて光の質量は明らかに頼り無かった。それでも、微かな光が――希望が、人の世を照らしていた。




