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ペンダントに収められていたのは、銀髪と金の瞳を携えた女児だった。幾ばくかの年数を重ねているようで、微笑みを浮かべる絵は少し色あせていた。
「ヴァン先生に似てる…… 妹さんでしょうか?」
セレネが少しばかり残念そうに、それでいて安堵したように、言った。
彼女の手の内に収まる銀髪の女児へちらりと視線を向けてから、ティアリスは少しばかり顔をしかめた。しかし、直ぐに口元を歪めて、この場に居ない変態を嘲笑った。
「はっ。ロリコンな上にシスコンとは、とんでもねークソ変態野郎ですね」
悪態を吐いてから、ティアリスが細い身体で伸びをした。
薄手のパジャマが凹凸のない身体を浮き彫りにしていた。見る者によっては非常に扇情的だった。それこそ、ルーヴァンス=グレイという名の変態にとっては……
この場に彼が居ないのは実に僥倖であった。
女子のみの空間で、変質者に襲われない素晴らしき平和を噛みしめ、ティアリスがか細いおみ足をぷらぷらさせた。彼女の表情は心持ち柔らかい。壁一枚隔てるだけでも心に平穏は訪れるのだ。
にぱっと機嫌良さそうに微笑んで、精霊さまは口元に手を当てて小さなあくびをした。
「ふあぁあ。……ねっみーです。今夜寝ない分、明日は張り切って昼寝してやるですよ」
しょぼしょぼとした空色の瞳を擦りつつ、宣言した。
ティアリスの精霊としての力――聖なる瞳こそが周囲に監視の目を光らせている以上、彼女は夜通し襲撃に備えている必要がある。せめて夜の闇が晴れ、人の心の影が薄れる朝までは。
ゆえに、小さな小さな精霊さまは、いくら眠くても何とかして起きていなければならなかった。
とっ。
ベッドから降りて、ティアリスが壁際の本棚へと向かった。収まっている書籍を取り出してパラパラとページをめくり始めた。
何もせずに退屈でいるよりは、知識欲を満たして過ごした方が眠気を退けられると考えたのだろう。
「……色恋沙汰の物語ばっかですね。流石はコイスルオトメです」
「……何か引っかかりますね。まあ、いいけど。それよりもこの袋、アリスちゃんが持ってないと駄目なんですよね。はい、どうぞ」
含みのある言葉尻の女児に対して唇を尖らせた少女だったが、直ぐに笑みを浮かべてペンダント入りの袋を手渡した。
ルーヴァンスから受け取った彼の持ち物は、トリニテイル術の威力を上げるという実益を得るために手に入れたのだ。精霊さまが持っていなくては何の意味もない。
ティアリスは嫌そうにしながらも、汚物を扱うような動作でぎこちなく受け取った。




