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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
3.人の世にこそ悪満ちる
60/186

3-9

「欲深きは幸せを望むがゆえ、と言って、サタニテイル術を『幸せを願う術』と名付けた古代悪魔学の学者もいたそうです。まあ、さすがに平和ボケが過ぎる名称とは思います。当然のことですが、願いがすべて善良だとは限りません。しかし、かといって、すべてが善良でないとも限りません。人とは、人界とは、そういうものですよ」

 誰かを殺したいと呪うのも、誰かを救いたいと想うのも、どちらも強い願いであり、どのような形であれ幸福を求める叫びである。そして、それらの願望は、実行に移すためにはとても大きい力を要する。その時こそきっと、悪魔という名の強い強い力が必要なのだ。

 ルーヴァンスの言葉に、ティアリスはやはり肩を竦め、セレネとヘリオスは微かに苦笑した。そして、ミッシェルは特に表情を変えることもなく、菓子を口に運んでいた。

 マルクァスはというと、特に思うこともないようで、地図へと向けていた厳しい瞳をあげ、ルーヴァンスに視線を投げかける。

「町中を基礎に置いて描き出された血六芒星で喚び出される悪魔は、どの程度の実力になるか見当はつくかね?」

「戦時中にボルネア軍の大隊を殲滅した悪魔と同等のレベルのモノ――『エグリグル』という一団に属する最上級の悪魔が顕れるでしょう。一日と経たずに、この町が壊滅します」

 凄まじい現状があっさりと開示された。

 双子が息を呑む。

 卿も渋い顔で唸った。

 しかし、ミッシェル夫人はやはりぼうっと紅茶を飲んでいる。微笑む様は女神のようでもあり、状況から言って死神のようでもあった。

 精霊さまは精霊さまで特に興味もないようで、無表情だった。

 そこで、メイドが扉を開けて姿を見せ、マルクァスのつく席へと寄った。

「お話中に失礼いたします。旦那さま、警邏隊のゴムズさまがいらっしゃいました」

 報告を受けて、マルクァスが頷いた。

「通してくれ」

「かしこまりました」

 一礼して、メイドが広間を出て行く。そして、しばしの時間が過ぎ、扉が再び開いた。

 疲労した様子のブルタス=ゴムズ警邏隊長が姿を見せた。

「町の被害状況の報告に上がりました、アントニウス卿」

「ああ。よく来てくれた、ブルタス隊長。まずは掛けてくれ」

 マルクァスの勧めに伴い、メイドの一人がルーヴァンスの隣の椅子をすうっと引く。

 ブルタスは一礼してからその椅子に浅く腰掛けた。


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