表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
3.人の世にこそ悪満ちる
53/186

3-2

 アントニウス邸の食卓に、邸宅の主たるマルクァス=アントニウス卿とその妻ミッシェル、彼らの二子セレネとヘリオス、精霊ティアリス、そして、塾講師のルーヴァンスが集っていた。

 夕刻の勝利を踏まえて、精霊さまとその協力者を歓待しようというのが趣旨であった。

 晩餐はもう済み、彼らは食後のティータイムを楽しんでいた。

 精霊さまと人の子の出逢いについて。

 ティアリスがリストールの町にやって来た事情について。

 トリニテイル術やサタニテイル術について。

 その術士について。

 それらの説明をセレネが語り終え、一段落したところで、場に舌打ちの音が響いた。

「ったく…… 手間取ってるうちに犯人の術士が消えちまったじゃねーですか。クソうぜーです」

「……うっ」

 ティアリスが肩にかかる黒髪を払いつつ、暴言を吐いた。そうしてから、紅茶を飲み下し、厳しい視線を人の子へとそそいだ。

 セレネがしゅんと縮こまる。母親に叱られた幼子のようである。

 意気消沈する生徒を苦笑と共に見つめ、師が紅茶を飲み下してから諭すような口調で語りかける。

「まあまあ、ティア。そうセレネくんを睨まないであげてください。サタニテイル術士――犯人の見当ならついていますから」

 ルーヴァンスは何気ない口調で驚きの台詞を吐いた。

 ざわっ。

 その場の視線が彼に集まる。

「る、ルーヴァンスくん。それは本当か?」

 代表してマルクァスが尋ねた。

 ルーヴァンスが深々と礼をして、慇懃な態度をもって応える。

「ええ。誠でございますよ、卿。少なくとも、彼こそが海上に居たティアやセレネくんを攻撃した術士であるということは間違いがありません」

 彼は自信をもって言い切った。

 昔取った杵柄というやつで、ルーヴァンスは悪魔やサタニテイル術の気配に敏い。それゆえに、大きな術が行使された先の戦いを契機として、犯人の正体に当たりをつけることができるのだ。

「ヴァン先生。彼というのは……?」

 セレネの問いを受けて、ルーヴァンスが肩を竦める。何気ない口調で衝撃を放つ。

「大聖堂の神父のパドル=マイクロトフさんですよ」

 …………………………

 沈黙が流れた。

 その間、ルーヴァンスとティアリス、ミッシェルの紅茶をすする音だけが響いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ