2-26
ざぱん! ざぱん!
ルーヴァンスはオールを懸命に操り、荒波をかき分けて進む。海水がへりを越えて浸入してくる。銀の髪が濡れて額に張り付いていた。
塩辛い雫が滴り落ちるなか、彼の金の瞳は空を仰ぐ。その視線の先では、いまだ爆煙が消えておらず、ティアリスたちの様子も魔人の様子も詳しくは分からない。
闇雲にサタニテイル術を行使したとしても、ティアリスやセレネに当たってしまう可能性がある。更に悪くすれば、ルーヴァンスがサタニテイル術を扱うことで、ティアリスが本来の敵と彼を誤ってしまう可能性もある。
(まずは合流すべきか)
そのように結論付けて、ルーヴァンスが大きく息を吸う。そして、叫ぶ。
「ティア! こちらへ!」
その声は、爆煙に紛れて魔人の動向を探っていた精霊に届いた。当然、彼女と共に浮遊している少女にも。
彼女たちは各々に反応を示す。片やとても嬉しそうで、片やとても厭そうだった。
「……ヴァ、ヴァン先生ぇ」
「……出来れば無視してーです」
それぞれ、紅い瞳と空色の瞳に涙を溜める少女と女児。
前者は喜びから、後者は慄きから、瞳を濡らした。
「アリスちゃん! ヴァン先生が――ボクの王子さまが助けにきて下さいましたよ!」
「アレが王子とかてめーマジで趣味わりーですよ。ったく」
顔を近づけ、声を潜めて二人が会話する。
いまだに爆煙は晴れておらず、それゆえに、魔人からも隠れられている。声を聴かれてはまずい。
びゅっ!
「っと。あぁ、そりゃーそーですね」
「え?」
淡々としたティアリスの言葉を耳にして、セレネが首を傾げる。
それと同時に、海面を衝撃波が襲った。
「ヴァ……むぐっ」
大きな声を上げようとしたセレネの口を、ティアリスがすばやく塞ぐ。
「せっかく変態が狙われてるのですから、でっかい声だすんじゃねーですよ」
にっこりと爽やかに、精霊さまが微笑んだ。




