2-24
海面には火のついた木片が浮かんでおり、港の方々には細かく砕けた瓦礫が転がっていた。惨憺たる有様であった。
ティアリスが舌打ちをする。
(術を扱うことに慣れてねー奴を媒介にしても、広域防御はムリみてーですね。ったく、使えねーです)
ずどんッ! ずどんッ!
黒弾がどんどんと港近郊の家屋や施設にも着弾する。それぞれが倒壊し、爆発した。
「あ、アリスちゃん! どうすれば……?」
「町の被害はあるていど諦めやがるです!」
ティアリスの無慈悲な言葉にともなって、展開していた光の防護壁が縮まる。彼女たちを覆う程度の規模になった。最低限、自分たちの身を護ることを優先することとしたようだ。
そして、セレネの腰にふたたび小さな手が添えられ、活力が満ちる。
「神刀!」
ヴン!
光の刃がセレネの腕に生まれた。
「セレネ。剣の心得は?」
「ないないないないッ!」
セレネが慌てて首を振るう。表情はかたく、瞳には涙が浮かんでいる。
宙に浮かんでいる事実、魔人と相対している事実、そして、建造物を粉砕する威力の弾丸が飛び交っている事実。全てが彼女に緊張を強いていた。
一刻も早く逃げ出したい心地だった。
しかし、当然そんなわけにはいかない。
「ちっ、役に立たねーですね。まあいいです。腕を真っ直ぐ前につきだして、目をつぶってろです」
飛行の制御はティアリスの精霊術で行っている。剣を構えてさえ呉れれば、そのまま突っ込むことで攻撃とすることができる。
セレネは言われた通りに諾と刃を構えた。恐怖と混乱に満ちた彼女の頭に、代替案など一つもなかった。
ひゅんッ!
ティアリスがセレネの腰を掴んで、宙を一回転した。そうしてから、闇の存在へと向けて翔る。
魔人化した男が、彼女たちの攻勢から逃れるために上空へと飛び上がった。
「くっそ! めんどくせーですねッ! とっとと死ねです! ボケ魔人ッ!」
暴言を吐いて、ティアリスが背の白翼を羽ばたかせた。
闇の軌跡を光の軌跡が追う。
「第七精霊術『聖霊弾』!」
どどどんッッ!!
男の飛行経路を限定するように光弾が男の周りでいくつも破裂した。リストール港の上空に轟音が響きわたる。
爆煙が海上を満たしたため、ティアリスとセレネの身が隠れた。
(これで詰みです!)
魔人の軌道を読み、ティアリスは翼を操る。
びゅッ!
闇が煙の壁から飛び出してくると、その先に光が待ち受けていた。
魔人はいっしゅん動きを止めるが、すぐさま軌道を変えようとして、黒翼に力を込めた。
しかし、時既に遅し。
「終わりです、クソ魔人!」
光刃が闇を引き裂かんと迫り――
どんッッ!!
突然、町の中央付近から黒い光線が放たれ、二人の周りに展開されていた光の障壁に着弾した。
「なっ!」
「きゃああぁあ!」
意識外の横手からの衝撃に、精霊が驚愕し、少女が悲鳴を上げた。




