2-3
並んで歩くルーヴァンスとティアリスの間にバッと割って入って、セレネが大きな声を上げた。そこに内在するのは怒りではなく、寧ろ妬みのようだ。
彼女の提案を耳にした二者が辺りを見渡す。
「お店は閉まっていやがるですが……」
「まあ、このところ物騒ですからね。客が入らず営業していられないのでしょう」
適切な分析が為された。
平素であれば町の中央にある噴水広場を囲んで、飲食店が数軒つらなっている。その全てが営業を停止していた。
そして、飲食店のみではなくあらゆる店舗が活気を失っている。
「ははは。いやぁ、これでは喫茶デートは無理ですね」
「ふんっ。初対面でワタシと自宅デートでいやがりますか。光栄に思えですよ、ヴァン」
軽口が飛び交った。
精霊と師を交互に見て、セレネがぷくっと頬を膨らませる。
「あー、もお! 何なんですかそのやり取り! 羨ましいですっ!」
本音が人のまばらな道に響いた。
少女は涙目でキッと目つきを鋭くする。
「ボクなんてヴァン先生のおうちに行きたいって言ってもいっつも断られるのにぃ!」
塾の講義で質問事項がある場合、塾での教示となるか、アントニウス家の客間での教示となるかの二択であった。
生徒の不満を耳にして、先生が柔らかく笑む。
「まあまあ。うちに来たところで何も楽しいことなどありませんよ、セレネくん」
ルーヴァンスの言葉に、セレネが唇を突き出してブツブツと何やら呟く。
「別に楽しくなくったっていいですもん。特に不都合がないなら連れていってくれたっていいじゃないですか。なんでアリスちゃんだけ……」
ごもっともな意見ではあるが、そこはそれ、ルーヴァンスの嗜好ゆえだろう。
ストライクゾーンが九歳から十三歳である彼にとってみれば、十四歳のセレネよりも十歳にしか見えないティアリスの誘いに乗るのが自然というもの。
とてつもなく犯罪の臭いがする。
「とにかく! 今日はボクも伺いますから!」
頑として譲らない姿勢を見せるセレネ。
ルーヴァンスが苦笑しつつ頷く。
「それは構いませんが…… ティアもいいですか?」
問いかけに対して、ティアリスは肩を竦めて首肯する。
「ワタシは別に構わねーですよ。セレネはセレネで利用できそーですし」
何気ない精霊さまの呟きに、怒り心頭だった少女が冷静さを取り戻して頬を引きつらせる。
「えっ。ちょ、ちょっと待ってください。ボク、何に利用されちゃうの?」
「こっちの話ですから気にすんじゃねーです。適当に聞き流しやがってください」
非常に受け入れ難い要求だった。
しかし、セレネはしぶしぶながら頷く。このまま、ティアリスだけでルーヴァンス宅へ向かわせるわけにはいかない以上、多少の危険を感じても引き返せはしない。
「うー。なんか分かりたくないけど、分かりました……」
「はい。良い子でいやがるです。じゃあ、行くですよ」
話がまとまりをみせ、三人はそのまま雑談をお供に路地を行く。
路はいまだに人がまばらではあるが、それでも多少の人影を見せている。彼らの表情はほんの少しながら明るい。
精霊という名の光が人界へと齎されたゆえか、相変わらず沈んでいる町にも微かな灯りがともったようだった。




