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国営塾はしばらく休業することに決まった。構内で殺人事件が発生し、講師が一人亡くなってしまったのだから当然だろう。無期限の休暇が塾長の口から告げられた。当然ながら、講師陣も生徒たちも休みとなる。
それゆえに、いち講師のルーヴァンス=グレイは、やって来たその足でそのまま帰宅するしかなくなってしまった。
帰路についた彼の右隣では、やはり帰宅を強いられた十四歳の女生徒セレネ=アントニウスが、左隣では見た目が十歳前後の女児精霊ティアリスが歩みを進めている。
彼女たちを瞳に入れて、ルーヴァンスが口を開いた。
「ところで、ティアリスさまは僕にお話があるそうですが、セレネくんはなぜうちに?」
「な、なぜって…… それは、その……」
ルーヴァンスの疑問に、セレネがどもりながら顔を赤らめた。
彼女は二つの理由で同行している。一つは勿論、自他ともに認めるロリコンの師を女児と二人きりにしないため。そしてもう一つは――
「はっ。セレネはけなげでいやがるですね。気持ちわりーです」
少女がお医者様でも治せない病に罹っていることを察した精霊様が、嘲るように肩をすくめた。
「あ、アリスちゃん!」
真っ赤な顔で睨みを利かせて、セレネが声を荒げた。
頬を上気させた少女を鼻で笑ってから、ティアリスはルーヴァンスへと視線を向ける。
「うっぜー思春期はほっとくとして…… 銀髪クソ虫。ワタシのことはティアとかアリスと呼びやがれです。様付けとかうっとうしいのでやめるですよ」
「わかりました、ティア。では、僕のこともルーやヴァンとお呼び下さい」
人の子の願いに精霊様が嗤う。
「ふん。人間なんて『クソ虫』でじゅーぶんでいやがりますけど…… まあいいでしょう。ヴァン」
改めて呼ばれると、ルーヴァンスは銀の髪をさらりと揺らして爽やかに微笑んだ。
今のところ、完璧に性癖を隠して猫をかぶっている。どうしようもない変態も一応ながら、幼女趣味は秘匿すべき、という自覚はあるようだ。
いまだ真実を知らぬ幼女は、小首を傾げて言葉を続ける。
「で、ヴァンの家にはまだつかねーのですか?」
「もう少しですよ」
ルーヴァンス宅は町の南東で、中央寄りの地域に在る。
現在地は、町の中央の大聖堂前をすぎて南部地区にさしかかったところである。あと十分ほども歩けば、変態の住居へ到着するだろう。
かの地を以前から切望していた愚者は、ぐっと拳を握って精霊様へと迫る。
「いやいや、とゆーかですね、アリスちゃん! お話をするだけでなにゆえにヴァン先生のお宅へお邪魔する必要があるんですか! そこら辺のお店で紅茶でも飲みながら済ませばいいではないですか!」




