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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
1.人と悪魔と精霊と
20/186

1-19

 伝播するざわつきを押しのけるように、よく通る声で精霊様が言葉を連ねる。

「さっきの下級悪魔は、どっかのバカ野郎が使役しているうちの一匹にすぎねーです。サタニテイル術士をぶっとばさねーことには、事件は解決しねーですよ」

「? サタニテイル術士?」

 町民の一人が疑問を呈したが、女児は応える様子を見せない。わざわざ教授する義理も責任もないと、無関心を決め込んだ。

 その代わり、足元に――セレネの背を支えるルーヴァンスへと視線を向ける。

(……ふーん。このクソ虫は術士、いや、元術士といったところでいやがりますか? この野郎が一番役に立ちそーですね。それに――)

 にこっ。

 女児が満面の笑みを浮かべた。

(顔がモロに好みでいやがるです。ふふふ)

 すこぶる機嫌が良さそうだった。

 俗っぽい精霊さまである。

 一方で――

(精霊、ですか…… 九歳? 十歳? 年齢は見た目通りでないのでしょうが……)

 すこし考え込んでから、ルーヴァンスはセレネを支えたままで微笑む。

 雨上がりの青空のように、爽やかな笑みであった。

「僕の名はルーヴァンス=グレイ。貴女のお名前を伺ってもよろしいですか? 素敵なお嬢さん」

 生き生きとした表情で、俗っぽさの代表選手とでも呼ぶべき人の子が尋ねた。

 精霊は人の子の性癖など存じ上げずに、にっこりと微笑む。

「ティアリスというです。よろしくお願いするのですよ、クソ虫」

 人の世の大地に小さな光が齎された。


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