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「だから! 結論を言えです! マジさっさとするです! ぶん殴るですよ!」
ティアリスにとってはそんなことすらもどうでも良かった。不機嫌さを隠すこともなく、精霊界の王を威嚇した。彼女が欲しいのは結論だけだった。
ここで初めて、王が言葉に詰まった。逡巡し、言いづらいことを口にする時の、何とも言えない表情を浮かべた。
しかしながら、直ぐに気を取り直して、言の葉を口から絞り出した。腰が引けているように見えるのは、気のせいではないだろう。
「この町へ今後も悪魔の干渉が起こり得る以上、看過できんという決に達した。今しばし、我ら精霊はこのリストールの町を守護する体制を採る」
ティアリスの嫌な予感は現実に成ろうとしていた。
「第一級トリニテイル術士ティアリスよ。お前に――」
(あぁ、クソ神さま)
ぬばたまの髪を震わせ、空色の瞳も震わせ、ティアリスは珍しくイルハード神へと祈りを捧げた。祈りというよりは、呪いを……
「人界の町リストールへの常駐を命じる」
(あんた、マジ死ねですよ……)
精霊さまが呪いを心に浮かべつつ、ぽかんと口を開けて固まった。彼女の身体からは、時が経つにつれて怒りのオーラが放たれ始めた。黒髪のみならず体全体が怒りに震え始め、空色の瞳を揺らがせていた液体は涙として目尻に溜まった。
そのような女児の様子を瞳に映して、精霊王は慌てて、イルハードさまがそのように仰ったのだ、との一文を最後に添えた。
精霊の王も自分が可愛いのだろう。見事に責任の所在を天上の神へと移してみせた。
神は直接人界へ介在できないゆえ、一切の文句を紡げなかった。
一方で、彼らの様子を神妙に観察していた人間たちは、漸うその表情に笑みを浮かべた。
「じゃ、じゃあ! アリスちゃんとまだ一緒にいれるんだ!」
「オレは正直なとこ複雑…… 明らかに嫌われてるし……」
双子がそれぞれ、あるいは嬉しそうに笑い、あるいは曖昧に笑った。
そしてもう一人、明らかに挙動不審な男がいた。
銀の髪は身体がびくっびくっと震えるたびに波打ち、金の瞳はギラギラと輝いていた。肌はつやつやと血色がよくなっていき、精力剤でも口にしたのかという具合だった。それでいて、ぐふふと妙な笑い声をたてるとか、はぁはぁと荒い息をつくとか、妖しいことこの上ない様子であったため、港で露天を開いていた者も、釣りに興じていた者も、愛を語らっていたカップルも、ついでにヘリオスも、ドン引きして遠く離れていった。
そして、精霊王もまた、逃げるように踵を返した。右腕を徐にかざして、何も無い空間に再び光の扉を作り出した。
「連絡は以上だ」
そうとだけ口にして、精霊の王は精霊界へ戻ろうとした。しかし、扉を潜る直前に首だけで振り返って、言葉を残していった。