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「まあ、どんなにこっちに合わせてきやがっても、ヴァンがヴァンである時点でワタシがてめーを気に入ることは金輪際ねーですよ、ご安心下さい。このクソ虫が」
精霊さまが、満面の笑みで言い放った。
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。女児の暴言が心に突き刺さって、僕はもう!」
「寄んなです! 第十精霊術『聖打』!」
「ぶふぅ!」
変態が吹き飛んだ。
「ルーせんせえ…… 怪我とか治りかけなんだし、大人しくしてなよ」
「女児に興奮しないなんてあり得ませんよっ!」
「……あり得るよ」
現在、国営塾は休みとなっている。しかし、二日後から再開すると、塾長が今朝アントニウス家に報告に上がっていた。
当然ながら、ルーヴァンスも古代悪魔学の講師としての仕事を再開する。
そして、国営塾には初等科があり、女児がたっぷりいた。
「今さらだけど、ルーせんせえが初等科でも授業するの、何か不安だよ」
その言葉に、ルーヴァンスが心外だとでもいうように肩を竦めた。
「僕はプロの講師ですよ。プロは生徒に手を出しません!」
「えッ!」
驚愕の声を上げたのはセレネだ。ぶるぶると青い顔で震えていた。
「じゃ、じゃあ、ボクが相手にされていないのも……」
「セリィは女児じゃねぇじゃん」
「セレネはやっぱバカ野郎ですね」
こぞって馬鹿にされた。
『そもそもルーヴァンスのどこがいいのか、理解に苦しむな。セレネは変だぞ』
先日の事件以来、たまに頭の中でコメントを残すようになった『エグリグル』の悪魔にすら突き放された。
引きつる顔でぎこちなく笑み、セレネがゆっくりと大地に跪いた。祈りの姿勢を取り、ゆっくりと瞑目した。
「い、イルハードさま。罪深き彼らに、ちょっとした天罰をお与え下さい」
「あれだけ色々あって、まだ神さまに祈るんだ。すげーな、セリィ」
「つーか、罰じゃなくて許しを与えやがれですよ」
信仰の薄い者と、信仰などせぬ者が、それぞれ肩を竦めた。
『望むならば私が、足の小指を角にぶつけるように仕向けてやってもいいぞ』
「しなくていいですっ!」
親切な『エグリグル』の悪魔の言葉を、人の子は強固な意志で退いた。
そして、双子の弟と精霊さまを紅い瞳でキッと睨んだ。
「パドル神父さまのこととか、今回の諸々とか、そういうのはともかく! 信仰は大切なんですっ! 朝にお祈りしていると清々しい気持ちになれるし! イルハードさまが見守ってくれていると思うとがんばれるし! 心が豊かになるんです! 実益なんてなくていいんですッ! 信仰っていうのは、それでいいんですッッ!!」
はぁ! はぁ!
セレネが涙目になって怒りを爆発させた、その時――
ヴン。
鈍い音が響いて、何もなかったはずの空間に、光の扉が生じた。