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上空には青が広がっていた。緩やかな風に乗って白雲が南へと向かった。彼らは遥か海の向こうへと向かい、此の地の荒廃と平和を余すところなく伝えて呉れるに違いない。
リストール猟奇悪魔事件が終焉を迎えてから数日が経ち、警邏隊のブルタス=ゴムズ隊長は警邏隊員に指示を出して、澄み渡る青空の下で瓦礫の撤去を行っていた。
「はぁ」
町の中央は瓦礫だらけで、まともな建物など一棟すら残っていなかった。名所だった大聖堂は見るも無惨に倒壊しており、町民にもまた多大な被害が出ていた。更に言うなれば、町の南の港もまた、中央ほどではないにしろ被害状況は甚大で、景観が大いに損なわれていた。
みごと悪魔に因る残忍な事件が解決したかと思いきや、この町には新たな問題が――今後の観光事業に関わる問題が浮上してしまったのだ。美しい大聖堂と港が心を惹きつける町、というキャッチコピーにはもはや偽りしかない。
先のブルタスのため息はそれゆえであった。
(まあ、とはいっても、悪魔よりはマシかねぇ…… 俺をはじめ、生きてる奴らもまだまだたくさんいるんだ)
諦めた瞳を天へと向け、彼は強がってみせた。生きてさえいればきっと、かつての町と、その美しさと、ひょっとすれば人の想いもまた、取り戻せるやもしれないと、強がってみせた。
「隊長! こっち、手伝ってくださぁい!」
「おう! 今、行く!」
ブルタスは隊員の呼びかけに応えてから、小さな十字を立てた土饅頭たちの元を立ち去った。
十字の一つには下手くそな文字で『パドル=マイクロトフ』と書いてあった。他にも、猟奇悪魔事件の被害者だった者の名や、被害者だった者に命を奪われた者の名など、悲劇の主役だった者たちが並んでいた。
そして――『マリア=マイクロトフ』という名もまた連なっていた。
「……今度こそ『妹』を護れよ、神父」
「? 何か仰いましたか、隊長」
「いや。何でもない。さぁ、気合入れて働くぞ!」
「はい!」
リストールの町の人々は、希望を信じて今を一所懸命に生きていた。