表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
5.紅闇と白光の輪舞
176/186

5-51

「この町の血六芒星ブラッディ・ヘキサグラムは規模の割に、愚者パドルに少なからず残っていた躊躇と、あやつの力不足が相まって、中途半端にしか扱われておらぬ。罪人を殺したいという願いの裏にも、この女を生き返らす、というあり得ない、かつ、下らない想いが隠れておったのがまずかった」

 自身の体を――シスター・マリアの屍体からだを示し、紅魔アスビィルが言った。

 人の死は覆せない。ゆえに、その願いが悪魔を求めようとも、強き力を得るのは難しい。

「魔の上に立つ者よ。お前ならばウチの力を九割方は喚び込めそうではあったが……」

 そう口にしてから、シスター・マリア=アスビィルはゆっくりと首を振った。

「お前はウチを気に入っていないと見える。それに、ウチもお前が気に喰わぬ。その目が、真っ直ぐ前を見つめる、今となっては絶望の宿らぬその目がのぅ。まったく…… アルマースと精霊にたぶらかされおって」

「……それは……残念ですね……」

 さほど残念そうでもなく、ルーヴァンスが呟いた。

「だ、第六精霊術『聖霊砲しょうれいほう』!」

 ずんッ!

 ティアリスが新たなる閃光を生み出した。その光は、ルーヴァンスが生み出している光へと合流し、更なる力と成った。

 しかし、その希望ひかりはあまりにも微弱でしかなかった。

「神の力を扱いながら、焼け石に水としか言えない精霊自身の力を放つとは、無駄な無茶をするのぅ」

 紅き瞳を細め、余裕のある表情で、悪魔が嗤った。

 無駄を承知で無茶をしようとも、強き紅の魔を退けるには至らないことが証明された。実際、神と精霊の白き力は相変わらず、悪魔の紅黒き力に押され続けていた。

「さぁて。そろそろ本気で飽きてきたのぅ。これで――さよならじゃ」

 そう口にすると、アスビィルの顔から薄笑いが消えた。彼女は表情を引き締め、全身に込める力を増した。

「……ぐッ!」

「っち! クソ悪魔の分際で生意気です……!」

 人の子が表情を歪めて呻き、精霊は人の背に顔を埋めて毒づいた。彼らは自分たちの力が紅闇に遠く及ばないことを自覚していた。しかしそれでも、決して諦めることなく、精一杯力を腕に込めつづけた。そうすれば不足している実力が埋まるかの如く信じて。

 光の尽力には頓着せず、闇はどこか気もそぞろに未来を見つめ始めた。紅色の瞳を希望はかいに輝かせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ