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「この町の血六芒星は規模の割に、愚者に少なからず残っていた躊躇と、あやつの力不足が相まって、中途半端にしか扱われておらぬ。罪人を殺したいという願いの裏にも、この女を生き返らす、というあり得ない、かつ、下らない想いが隠れておったのがまずかった」
自身の体を――シスター・マリアの屍体を示し、紅魔が言った。
人の死は覆せない。ゆえに、その願いが悪魔を求めようとも、強き力を得るのは難しい。
「魔の上に立つ者よ。お前ならばウチの力を九割方は喚び込めそうではあったが……」
そう口にしてから、シスター・マリア=アスビィルはゆっくりと首を振った。
「お前はウチを気に入っていないと見える。それに、ウチもお前が気に喰わぬ。その目が、真っ直ぐ前を見つめる、今となっては絶望の宿らぬその目がのぅ。まったく…… アルマースと精霊にたぶらかされおって」
「……それは……残念ですね……」
さほど残念そうでもなく、ルーヴァンスが呟いた。
「だ、第六精霊術『聖霊砲』!」
ずんッ!
ティアリスが新たなる閃光を生み出した。その光は、ルーヴァンスが生み出している光へと合流し、更なる力と成った。
しかし、その希望はあまりにも微弱でしかなかった。
「神の力を扱いながら、焼け石に水としか言えない精霊自身の力を放つとは、無駄な無茶をするのぅ」
紅き瞳を細め、余裕のある表情で、悪魔が嗤った。
無駄を承知で無茶をしようとも、強き紅の魔を退けるには至らないことが証明された。実際、神と精霊の白き力は相変わらず、悪魔の紅黒き力に押され続けていた。
「さぁて。そろそろ本気で飽きてきたのぅ。これで――さよならじゃ」
そう口にすると、アスビィルの顔から薄笑いが消えた。彼女は表情を引き締め、全身に込める力を増した。
「……ぐッ!」
「っち! クソ悪魔の分際で生意気です……!」
人の子が表情を歪めて呻き、精霊は人の背に顔を埋めて毒づいた。彼らは自分たちの力が紅闇に遠く及ばないことを自覚していた。しかしそれでも、決して諦めることなく、精一杯力を腕に込めつづけた。そうすれば不足している実力が埋まるかの如く信じて。
光の尽力には頓着せず、闇はどこか気もそぞろに未来を見つめ始めた。紅色の瞳を希望に輝かせた。