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ティアリスの言葉を耳に入れて、ルーヴァンスは小さく笑んだ。女児に好意的な言葉をかけられた為では無かった。勿論、そういった理由もなくは無かったが、アルマースの言葉通り、光と共に先へ進もうという気が起きている、自分自身が何だかおかしく感じた為だった。
かつてルーヴァンスは、出身の村でイルハード神を奉じて生きていた。しかし、その村が滅び、彼は救済を与えぬ神を捨てた。
ルーヴァンス=グレイは、今でも神を信じるまでには至っていない。それでも、神の使いである精霊と共に歩む気は起きた。その心境の変化は、散々説教を垂れて魔界へ戻った悪魔によるものか、彼の背に抱き着いて神の力を雪ぐ精霊自身によるものか、はたまた、平和な時を刻んだ十年間と、その時間の中でかかわった者たち――国営塾の仕事仲間や町の人々、セレネやヘリオスたちによるものか。
国営塾の仲間――アルバート=エクマンは魔の手にかかってこの世を去った。他にも知人や友人が、此度の大々的な魔災で亡くなっている可能性は高い。ルーヴァンスは皆の為に動くのが遅すぎた。けれど、今ここで全てを終わらせることができれば、少なくとも、今現在生きている人々を救うことは出来る。
神は救いにならないことがある。救いになることもある。アルマースの言う通り只それだけのことで、今は――人界の救いと成り得るのだ。
すぅ。
人の子の背から漸う黒き翼が消え去った。彼は闇への依存心を消し去った。
「ティア。僕には――光が必要です」
「……ワタシは、てめーでも構わないってだけですけどね。出来れば他の奴がいいです、マジで」
つれない言葉が精霊の口から吐き出されたが、人の想いは消えなかった。
その証左であるかのように、彼らから放たれる光がより一層輝いた。