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セレネは、迫り来る真っ黒い手から視線を逸らし、きつく目を瞑る。
もはや、恐怖で身体が動かなかった。
(……いや……怖いよ……!)
「せ、セレネくん!」
「――っ! ヴァン先生!」
想い人の声に少女が瞳を開いたその時、黒き魔が大きな腕を振り上げた。
惨劇が繰り広げられようという、その刹那――
カッ!
光が瞬いた。
希望の光は人を照らし、闇の存在をも照らし出す。
「ったく。下級悪魔の分際で好き勝手やってくれやがりましたね」
(え? この子……)
光を放っていたのは、先ほど人垣に阻まれて半べそをかいていた女児だった。
女児は薄く笑みを浮かべて、悪魔を睨み付けている。
一方で、悪魔は顔を引きつらせて固まっている。
『ま、まさか……精霊……だと……?』
「正解ぴんぽーんでいやがります」
過剰に機嫌よく、女児が小首を傾げる。
しかし直ぐに、にぃっと邪悪に笑む。
「さあ、ご褒美をその身に刻んでやるですよ!」
叫んで手を振り上げた。
ヴン!
辺りに拡散していた光が、女児へと集う。