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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
5.紅闇と白光の輪舞
168/186

5-43

 紅魔が悠然と構えた。視線を前方へと向けたまま、いくつもある可能性を一つに絞った。

 彼女は全てが偽り(ブラフ)であることに賭けた。他の可能性を捨て、危険が残るのを楽しむことにした。

「クソ悪魔。てめーは精霊術のことをどれだけ知っていやがるですか?」

 シスター・マリア=アスビィルの後方からティアリスの声が響いた。

 相変わらず姿は見えず、ただ、鈴のような声音だけが聞こえてきた。

「おや? 話をしてもいいのかえ? 土煙の意味が無いじゃろうに」

「はっ。視界だけじゃ無く声の伝播も歪めていやがるかもしれねーですよ」

 馬鹿にしたようにそう口にしてから、ティアリスは先と同じ問いをシスター・マリア=アスビィルへ投げかけた。

 紅魔は微かな警戒心を抱いたままで、前方の光から視線を外さずに応じた。

「精霊術などという愚術、よく知らぬの。ウチにとって、精霊など戯れるにも値せぬのが通例じゃ。大概は即時殺すが故、お前らの術を目にする機会も極端に少ない」

 過去において彼女が相対した精霊は無数に居た。しかし、そのいずれもトリニテイル術を扱っている様子しか印象に残っていなかった。精霊術は、白翼を生むものや光弾を生むものなど、主要なものしか覚えが無かった。

 しかし、是非も無かった。間違い無く、どうでも良いことだった。

「それがどうかしたのかえ?」

 悪魔のその問いは、土煙で隠れた精霊さまの顔に笑みを生んだ。

「成程。僥倖でいやがります」

「?」

 背後から聞こえてくるソプラノの声音を耳に入れ、シスター・マリア=アスビィルは訝しげに眉を潜めた。

 悪魔が精霊術に寡聞であることを僥倖だと口にする以上、くだんの術こそが現状を打開する秘策と成り得るのだろう。しかし、『エグリグル』の悪魔であるアスビィルを傷つけることは、時に神の力であっても不足する。ましてや、何故精霊の力などで傷つくだろうか。

(精霊が自身の力を高め始めおったか。やはり、精霊術をウチに放つ積もりかのぅ)

 そのように思考し、しかし、直ぐに紅魔はかぶりを振った。

(いや、攻撃ではあるまい。ウチの動きを封じるような――違うな。それも結局は力不足で不発に終わろう。あの精霊は脆弱じゃが愚かでは無い。明らかに無駄な行いを為すとは思えぬ。ウチを滅することこそ奴らの本懐。なれば……)

 答えは一つしか無かった。

(トリニテイル術でウチを呑み込み、滅ぼす)

 結局はそこに尽きた。肝要なのは神の力を術として放つこと。

(そのために精霊の術が何を担うか)

 攻撃ではあり得ない。精霊は直接神の力を放てない。

 光放つ者を適切な時に適切な場所へ。

(移動、か)

 シスター・マリア=アスビィルはそう結論付けた。


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