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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
5.紅闇と白光の輪舞
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5-41

 どおおおぉおんッッ!!

 人の子と精霊の居る場所が爆発した。炎が立ち上ることは決して無く、ただただ土煙だけが辺りを満たした。

 そのことに一番驚愕したのは、シスター・マリア=アスビィルだった。眉を潜めて爆風を受けていた。金の髪と漆黒の衣服が無造作に風にたなびいていた。

(ウチ以外の悪魔か? ウチが気配を察せぬということは『エグリグル(ウチら)』の……イェークかえ? ガデュールかえ? まさか、カサデラではあるまいの?)

 人界に顕現してから最も警戒した様子で、紅魔が慎重に辺りを窺った。しかし、どんなに注意深く気配を読んだところで、新たなる魔の気は感知せざるものだった。

 一方で、土煙の中から神の気配が一層強く感ぜられるようになった。

「……ふむ。成程のぅ。単純じゃな」

 失望の色を隠すこともなく、シスター・マリア=アスビィルが嘆息した。紅き瞳を伏すと、輝きの鈍った金の髪がふさりと、泥と血で汚れた額にかかった。風に舞う土埃が、そして何より彼女に満ちた魔の力が、鮮やかだった髪と白くきめ細やかだった肌を穢していた。

 強き力を有した魔は、耐え切れず傷み始めた遺体シスター・マリアを一瞥し、肩を竦めた。

(目くらましからの奇襲とは、あまりにもお粗末じゃの…… 偽装フェイクじゃろうか? しかし、あちらから感ずるのは間違いなく神の力。アレは偽りようが無い)

 爆煙の中で神力がどんどんと高まっていった。ついには、暮れ始めた西の空に今再び輝かしい光を与えんと白を発し始めた。

 シスター・マリア=アスビィルはそちらへ充分な警戒の瞳を向けつつも、澄み渡る上空に、静寂が溢れる地底に、荒地にも似た地上に、リストールの町を構成する方々(ほうぼう)に注意を払い続けた。

(やはり神の力はあそこへ集結しておる…… 奴らは本気で、アレでウチの隙をつけると考えておるのか……? 仮にも、『魔の上に立つ者』とまで謳われた人の子と、トリニテイル術士として人界へ遣わされた精霊じゃぞ……)

 紅魔の疑念はとどまることを知らなかった。

 シスター・マリア=アスビィルの力は、アスビィルとして不完全であるとはいえ、間違い無くルーヴァンスとティアリスを圧倒し続けていた。人界で今の彼女と渡り合える者は数名といったところだろう。

 しかし、彼ら――人の子と精霊は、外的要因や幸運が多くを占め、悪魔自身が多大な恩赦を与えていたという事情があったにせよ、幾度と無く危機を乗り越えてきた。生き延びてきた。

 故に、紅魔は彼らに対して絶大な信頼を寄せていた。目くらまし後に特大の力を放つ等という、あまりにも馬鹿らしい討魔策を企てる筈が無い、と。

 勿論、そのような思考を巡らすよりも前に、遺体シスター・マリアへとそそぎ込まれたアスビィルの力を極限まで高めて放てば、か弱き人の子も、誇り高き精霊も、一瞬で消し炭と化すことが出来た。が、シスター・マリア=アスビィルは、決してそうしなかった。

 彼女は人界での殺し合い(たたかい)を可能な限り楽しみたかった。


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