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ルーヴァンス=グレイはかつて、魔を超えた魔で相手を支配していた。様々な悪魔を屈服させ、時に下級の悪魔を、時に『エグリグル』並の上級の悪魔をサタニテイル術士として支配下に置いた。
しかし、人とは不安定なものだ。支えを失うことで容易に心を乱し、精神が瓦解して魔に屈服してしまう。そして、そのまま人として終わってしまう。パドル=マイクロトフのように。先程のルーヴァンス=グレイのように。
「精霊よ。お前がルーヴァンスをあまり好いていないのも、事実今の此奴が不愉快極まりないのも分かる。だが、悪い奴では無い。すまないが、ヨロシク頼む」
「何を勝手な――ちっ。消えやがったです」
ティアリスの言葉通り、白魔は音も無く消え去った。人界への干渉が限界を迎えたのだろう。
残された人の子と精霊は視線を、不満げに唇を尖らせているシスター・マリア=アスビィルへと向けた。
「……クソ悪魔に言われたからじゃねーですが、あの超絶クソ紅をぶっ飛ばす間はヨロシクしてやるです。感謝しやがれですよ」
「……僕もティアへの迸る愛を抑えるよう努力します。どうもソレがいけないようだと、アルマースが言っていましたので」
「……言われなきゃわかんねーとかマジどーしょーもねーですね、てめーは」
コソコソと小声で言い合う二者は、紅魔から視線を決して外さなかった。外したが最後、圧倒的な力を放たれて終焉を迎えてしまいかねなかった。トリニテイル術の威力が多少改善されようが、それ程の力量差が未だに有ると、彼らは感じていた。
「……正直なとこ、この場を収められるのですか?」
精霊さまが人の子に尋ねた。元サタニテイル術士に希望を求めた。
ルーヴァンス=グレイは苦笑し、しかし、小さく頷いた。
「……先程アスビィルの力を身に入れて分かりましたが、彼女も消耗しています。現状の血六芒星では、力を人界へ送るのにも限界があるのでしょう。マリアさんのご遺体を復元するような芸当も数度が限度かと」
然程の希望も生まれなかった。