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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
5.紅闇と白光の輪舞
160/186

5-35

 風が吹いていた。北から南へと緩やかに紅い風が吹いていた。

 場に蔓延る弛緩した時間は、その紅風と共に去った。

「ぐああああああああああああああぁあああッッ!!」

 絶望に染まった人の子が叫んだ。叫びは魔を支配し、魔を力へと転じた。

 ルーヴァンス=グレイの手には漆黒の刃が生じた。

 刃を手に、黒翼を背に、人の子が翔けた。

 その向かう先に居る紅の魔は口の端を上げ、ヴンと小さな音を立ててやはり黒き刃を生み出した。

 ギィン!

 黒と黒がせめぎ合った。

 ルーヴァンス=グレイの手に有る黒が、シスター・マリア=アスビィルの手に収まる黒を圧倒した。

 同じ魔の者から生じた黒き力には、しかし、明確な優劣が産まれていた。

(ウチの力が再び『魔の上に立つ者』に奪われておる…… その上、此度は……)

 紅魔の口元が繊月のように歪んだ。

 彼女の表情の変化に頓着せず、それどころか彼女の姿を金の瞳に映すことすらせず、ルーヴァンスは黒刃を振るい続けた。

 ギィン! ギィン! ギイィン!!

 ひと際大きな音が響き、黒き刃が回転しながら宙を舞った。そして、漸う消え去った。

 ルーヴァンスは虚ろなの瞳でシスター・マリア=アスビィルを見つめ、怒りや哀しみ、人界に満ちるあらゆる絶望の想いに支配されるがままに、黒を携えた右の腕を振り下ろした。

「ヴァン!」

 どがっ!

 横手からの体当たりが、ルーヴァンスの身体を倒した。小さな身体が左の腕にしがみつき、ぬばたまの髪を振り乱して顔を埋めていた。

 ティアリスが顔を上げ、空色の瞳に、魔に染まろうとしている人の子の姿を映した。

「放せよ……」

「てめーがそのままクソ悪魔を殺すなら文句ねーです! けど――」

「ふふ」

 ティアリスの言葉を耳に入れ、シスター・マリア=アスビィルが小さく笑った。彼女の瞳は再び淡紅ときへと変化していた。

 一方で、ルーヴァンス=グレイの瞳が真紅へと変じていた。

「てめーのソレは! 『支配している』のではなく『支配されている』のではないのですか!?」

「!」

 真紅の瞳を携えた人間が驚愕に表情を歪めた。

 アスビィルはパドル=マイクロフトの意識を、思想を、少なからず支配していた。ゆえに、彼の心のたがは外れ、希望を願い、絶望を振りまいた。

 しかし、『魔の上に立つ者』という二つ名を賜るに至ったルーヴァンス=グレイについては、パドルの様にはいかなかった。彼は魔への耐性が強く、魔に支配されず、逆に支配することが出来た。相手がどのように強力な存在だったとしても、容易に支配を受けないはずだった。

 その論理が壊れるのは、ルーヴァンスの心が黒く染まった時だった。怒りや哀しみ、嘆き。絶望が彼の心に満ちた時、魔の支配は彼を捕捉した。

 リストールの町を覆った血六芒星ブラッディ・ヘキサグラムを媒介として、紅魔はより良き傀儡ともを求めた。

「……ティア……でも……奴はセレネくんを……僕は……俺は……力が必要で……殺さなきゃ……奴を……この手で……この力で……また……世界を……救わなきゃ……」

 紅玉を見開いた人の子は、口から零れる言葉とは裏腹に、縋りついてきた精霊さまへと黒き刃を向けた。

 紅魔――ルーヴァンス=アスビィルが嗤った。


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