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「第二精霊術『天翼』!」
ティアリスが声高に飛行の為の術を行使した。背に白き翼を生み出し、大地に沿って飛行した。そのままルーヴァンスの元へと至り、彼の後ろ襟を引っ掴んで上昇し土煙の真上へと達した。
「ヴァン!」
精霊さまは人の子を一旦天へと放り投げた。そうしてから直ぐに彼の腰を、細く白い腕で掴んだ。有体に言えば、ルーヴァンスを持ち替えた。
軽い首絞めの後に天へと放り出されたルーヴァンスは、しかし動揺することもなく、ティアリスの声掛けに正確に反応した。
神界から精霊へ。精霊から人の子へ。神の力がそのようにして流れた。
神力の終点であるルーヴァンスは、賜った力を術へと変換し――
「神閃!」
解き放った。
白く輝く閃光が、人の町に溢れる紅き光を駆逐した。一帯は白へと染まり、白光は未だ土煙が漂う大地に突き刺さった。
どおぉんッッ!!
今まで以上に激しい土煙が上がった。
次いで、人界には静寂が訪れた。
「……やったのでしょうか?」
「不本意ながらトリニテイル術の威力も上がっていたですし、あれなら――」
ひゅッ!
突然のことだった。会話の途中で空気を引き裂く鋭い音が響き、紅闇が天上へと放たれた。瞬く間に闇が人の子と精霊を襲った。
紅色の闇が時を隔てずして人界の希望を貫こうとした、その時――
ばさッ!
ルーヴァンスとティアリスの眼前に黒き翼が広がった。
セレネ=アルマースがいつの間にやら魔弾の放射上に移動していた。彼女が両の腕を突き出すと、迫り来た闇色の砲撃がすぅと静かに消え去った。技をもって闇を分解、吸収したのだ。
「油断するな! 完全に力を出せぬとはいえ、アスビィルがあの程度で滅びるか!」
セレネの声音でアルマースが叱咤した。
彼女の言葉通り、晴れた土煙の中には未だにシスター・マリア=アスビィルの姿が在った。正確には『シスター・マリア=アスビィルだったモノ』とでも称するのが良いだろうか。彼女の右手は千切れていた。左半身は潰れていた。両脚は折れていた。しかし、彼女は嗤っていた。