5-31
爆煙が天上の血六芒星を受けて紅く染まっていた。紅色の煙の中から、黒と紅に彩られた魔が飛び出した。
シスター・マリア=アスビィルは口元を繊月のように歪め、右の手に闇色の刃を生み出した。
「黒月刀……」
「神刀!」
ヴンッ!
歪んだ口元と同様に欠けた月のような黒き刀を携え、紅魔がセレネ=アルマースへと迫った。
しかし、彼女たちが重なるよりも前に、ルーヴァンスが光の刃を手に魔の攻勢を削いだ。
光と闇がせめぎ合った。
「ほぉ。先よりも強い光じゃの。良いぞ良いぞ、褒めてやろう」
無邪気な笑顔を浮かべてシスター・マリア=アスビィルが賛辞の言葉を人の子へ下賜した。
「……きょ、恐悦至極ですね。それではご褒美に魔界へお帰り頂けませんか?」
余裕のあるシスター・マリア=アスビィルに対して、ルーヴァンスは歯を食いしばりながら苦しそうに言の葉を吐き出した。腕力の差ではなく神と魔の力の大小が、光の刃と闇の刃のせめぎ合いに優劣を与えているようだった。
紅魔は愉しそうに声を立てて嗤い、刃を振り上げた。
「それはウチが詰まらんので不可じゃ!」
「ッ! はあッ!」
闇の刃が振り下ろされるよりも前に、ルーヴァンスが光刃を突き出した。光は紅魔の胸に吸い込まれ――
ずさッ!
人の子は直ぐに刃を手放して大きく後退った。伴って、すぅっと神の刃が消え去った。
一方で、闇の刃はルーヴァンスが居た場所を勢いよく通り抜け、そのままの勢いで大地を穿った。
「おや? 避けよったか。流石に争いばかりしておる人界の者よの。慣れておるわ」
感心した様子のシスター・マリア=アスビィルの胸からは赤黒い液体が、ぽたりぽたりと滴り落ちていた。傷口からは内臓と肉が覗いていた。
すぅ。
痛々しい裂傷は瞬時に消え去った。
(……ちっ。傷や痛みを無視して攻撃して来るとなると厄介だな)
歯ぎしりをして内心で弱音を吐き、ルーヴァンスは両の手に光刃を生み出した。
彼は離れていた紅魔との距離を寸時で詰め、左の刃を垂直に振った。
すぱんっと小気味のいい音が響き、シスター・マリア=アスビィルの右手が闇の刃と共に宙を舞った。
「お」
狐につままれたような顔で紅魔は、人の子と飛んだ右手を交互に見た。
その間に、ルーヴァンスが身体を回転させて右の刃を水平に薙いだ。刃はやはり肉を裂き、紅魔が身にまとった漆黒の衣服に切れ目を入れた。
シスター・マリア=アスビィルの上半身と下半身がズレた。
そこへ白き光と黒き光が迫った。ティアリスの精霊術とセレネ=アルマースの魔術だった。
ルーヴァンスは手の中の光刃を消して大きく跳び、大地に伏せた。
どんッッ!!
再び、爆発に伴って土煙が舞い踊った。