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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
5.紅闇と白光の輪舞
152/186

5-27

「ちっ。んなことが出来んなら、最初からやりやがれですよ」

 紡がれた文句には言葉を返さず、アルマースが黒き翼を背に生み出して飛び上がった。不満あり気な精霊さまの目の前を漂い、彼女をまじまじと見つめ、小さな小さな口を開いた。

「……ふむ。まだ若いな。百、いや、八十といったところか。しかし、ルーヴァンスと比して充分過ぎる程の年月を生きているだろう。そも、循環生命としてならば数千年は優に超えていよう。年の功で奴の気持ち悪さぐらい許容しろ」

「無理です。クソきめーです。準縄じゅんじょうらつを余裕で飛び越えていやがるです」

 がしッ!

 顔の前で手の平をひらひらと振り、はっきりと拒絶してみせてから、ティアリスは目前の小さき生き物を紅葉のような両の手で鷲掴みにした。

「つーか! てめーはヴァンと契約していた悪魔みてーですけど、どういう教育してたですか!」

「知ったことか。そも、私は奴の保護者では無い。それに、私と共に在った時は奴も捻くれているだけの只の餓鬼だったぞ。セレネの記憶の中の今のルーヴァンスを窺い見て私も魂消たまげたくらいだ」

 悪魔が語る純然たる事実に精霊さまは耳を傾けなかった。不満を口にしてストレス解消を試みるのが主立った目的だったため、魔が提示した情報には何らの意味も見出さなかった。

 そして彼女は、更なる不満を吐露した。

「あの野郎がもうちょっとだけでもマトモなら問題ねーんですよ。第一級トリニテイル術士のワタシが居るんです。クソ人間に多少問題があるくらいなら余裕なんです。けど、よりにもよってあんな超弩級の変態じゃあ…… あー! あんな中途半端な力しかねークソ悪魔に遅れをとるなんて我慢ならねーですよ、もー!!」

「言ってくれるのぅ」

 墓に腰掛け、頬杖を突き、紅魔が嗤った。

 一方で、白髪の魔が嘆息した。

「まあな。許容しろと言われて許容出来るなら苦労せんよな。なれば――」

 アルマースはもぞもぞと動いて、握られた手の隙間から両腕を出した。その腕をすっとティアリスの細い指に沿えて、淡い紅玉を閉じた。

「兎に角、るが良い」

 すぅ。

 溶け込むように、ティアリスへ新たな記憶――悲劇や喜劇が入り込んだ。いずれもルーヴァンスに関わるものだった。彼は魔と共に人界に蔓延る理不尽と必死で戦っていた。

「……マジで昔のヴァンは比較的まともだったですね」

「まずソコか」

 精霊さまの呟きを耳に入れて、アルマースがくつくつと笑った。

 対して、ティアリスは肩を竦めて嗤った。

「他に目新しいことなんてねーですし。大概予想通りで、人界に有り触れたクソくだらねー悲劇の集合でしかねーじゃねーですか。だから何って感じです。思うところなんて一つもねーですよ」

 彼女の言葉は間違ってはいなかった。ルーヴァンスに訪れた物事は、過去でも未来でも人界に有り触れていた。

 しかし彼女は、言葉の通りに何も感じていないわけではないようだった。

「事実を予想することとることは違う。多少感じ入ることが有るなら何よりだ。術の威力に良い影響があることを祈る」

「……ふん。ヴァンが変態クソ野郎なのは変わらねーから期待薄です」


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