5-21
(……ちっ。さっきの攻撃でしとめられなかったのはいてーですね)
心の中で毒づき、ティアリスは白翼を羽ばたかせて天上を駆け回った。迫ってきた黒弾を全て避けてから、シスター・マリア=アスビィルへと意識を集中した。
「ティア!」
その時、ルーヴァンスの声が響いた。声には焦燥の念がふんだんに込められていた。
ティアリスが視線を移すと、黒の弾が横手から襲い来るのが目に入った。それをすんでのところで避けた。
先ほど避けたいくつかの弾が、途中で方向転換して再び襲い来たらしかった。
どん!
更なる追撃を防ぐために、女児が白き光弾を生み出して黒弾へぶつけ、意図的に破裂させた。
「ふぅ。今のは危なかったです……」
ティアリスが天上で白翼をはためかせながらひと息ついた、その時――
ずんッ!
アスビィルからまた新たな光が放たれた。
黒き光はまっすぐ精霊へと向かった。光線の速度は彼女の認識をはるかに超えるものであり、避ける暇はなかった。
どおおぉん!!
炸裂音が一帯に響き渡り、天上を爆煙が覆った。
「ティア!!」
絶望に表情を歪め、人の子が叫んだ。
「ふむ。そう来るか」
そこで、何故かシスター・マリア=アスビィルが感心したように呟いた。
暫くすると視界を遮る煙が消えた。
天上には、白翼を携えた精霊さまを守るように、黒翼を背に負った少女が居た。
「アリスちゃん、ご無事ですか?」
「……セレネ?」
ティアリスの眼前には華奢な背中があった。黒翼を有したその背中ごしに振り返った顔には表情が有り、瞳には健全な光が宿り、言葉には慈しみが含まれていた。先頃のように、少女が悪魔に魅入られてしまっている可能性は低かった。
それでも、精霊さまは万が一に備えて身構えた。小さな身体には緊張が走り、ビリリと電流を帯びた。
「あ、アリスちゃん! ボクはきちんと正気ですので精霊術はご勘弁ください!」
慌てた様子でセレネが待ったをかけた。
ティアリスは疑念を消し去った様子だったが、意地の悪い笑みを浮かべて身体に帯びた電流を強くした。
「悪魔にそう言わされていやがる可能性もあるですよね」
「ソレ、意地悪で言ってるでしょ!」
正鵠を射た指摘に、精霊さまが舌を出した。しかし、巫山戯てばかりいられる状況ではないと、直ぐに表情を引き締めた。