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紅と黒と白を備えたシスター・マリア=アスビィルは、指に付いた血液をひと嘗めし、口元を歪めた。
「ウチの力をお主からも感じたのぉ、元サタニテイル術士よ。横取りとは感心せんぞえ」
「……おや。随分とお早いお気づきですね」
光の刃を携えた人の子が、微笑みながら言った。しかし、彼の顔には焦りが窺えた。
(アスビィルの力を横から奪い、マリアさんのご遺体に流さないようにして弱体化する…… 作戦として単純ゆえに、気づかれてしまえば同じ手は使えない。力の向かう先を調整されてしまう)
実際、シスター・マリア=アスビィルに宿る闇の量が元に戻っていた。パドルの力量で喚び出された分の紅闇は全て、確実にシスター・マリアへと供給されていた。
今や、ルーヴァンスがいくらアスビィルから力を得ようと働きかけても無駄だった。アスビィルが人界へ雪いだ全ては、シスター・マリアの屍体へ向かうように調整されてしまった。
「第七精霊術『聖霊弾』ッッ!!」
ずんッ!
ティアリスが焦りを含んだ舌打ちと共に天上へと飛び上がり、幾百にもなる白き光の筋を放った。
しかし――
パァン!!
白は紅闇に容易に弾かれ、鋭い音と共に霧散した。
血六芒星より出でる力は、失していた強度を取り戻してしまっていた。
「良いのぉ! お主らは手強いのぉ!」
高らかに哄笑し、紅魔が叫んだ。
「ウチは人間を嬲るのが極めて好きじゃが、手応えの在る者をより強き力で蹂躙することもまた大好きなのじゃ!」
シスター・マリア=アスビィルは頬を紅く染め、恍惚とした表情で呪いを叫んだ。
「未だ未だ楽しき催しをウチは所望するぞえ!!」
紅々とした口元をニイィと三日月型に歪め、アスビィルは両の腕に紅黒き光を生み出した。
紅き黒弾が方々に放たれ、或いはルーヴァンスの立つ大地を、或いはティアリスの翔る大空を、或いは誰も居ない瓦礫の山を襲った。
方々で破裂音が響いた。