5-17
粉塵を抜けた光刃が闇の喉元を襲い――
「詰まらぬのぉ」
キィン!
しかし、即座に生じた黒き壁があっさりと光を止めた。
シスター・マリア=アスビィルは紅き瞳を細めて嘆息し、言葉通り詰まらなそうに眉を潜めた。魔は地上のルーヴァンスと天上のティアリスに紅玉を向け、彼らを哀れむように見下していた。
「先程コソコソと話をしていたのはこの程度の策を弄するが為かえ? なれば、お主たちとこれ以上遊ぶ価値は――ぬっ!」
がッッ!!
突如、光の刃が闇の壁を突き抜けた。
シスター・マリア=アスビィルは身体をひねって、想定外の一撃を何とか避けた。その為に、精霊への攻撃の手が止まった。
ティアリスはその隙を見逃さず、光弾を放った。此度はたったの一発だった。ルーヴァンスがシスター・マリア=アスビィルの直ぐ側に居ることを考慮した上だろう。
ばさァ!
闇色の翼をその背に生み出して、シスター・マリア=アスビィルが上空に飛び上がった。そうして光弾の放射上から逃れた。
ひゅッ!
しかし、光は地面を穿つことなく、闇の跡を追って方向転換した。
「ちっ。面倒じゃな」
シスター・マリア=アスビィルが独白しつつ、紅黒く彩られた防壁を生み出した。しかし、悪魔は急遽防壁を消して、数発の黒弾を放った。
どんッ!
唯一つの白光と数発の黒光がぶつかり合い、互いに爆散した。
「……先程から力が足りぬ。人界へと雪ぐ力の量は変えておらぬが、何故じゃ」
あっさりと消え去った黒と自身の腕を交互に瞳へ映し、紅魔が眉を潜めた。深紅だった彼女の瞳は淡紅に変化していた。
悪魔が先ほど防から攻へ転じたのは、形成した防壁の強度が想定外に弱く、光を相殺しきれないと判断した為だった。その黒き弾丸さえも、単一の光弾を相殺する為に数発を要した。
(術だけでは無い。此の人形を動かす事すら覚束ぬ)
訝る紅魔に息を吐かせる間を与えず、人の子が攻めた。両の手に神の刃を構えて駆け寄った。
ルーヴァンスは袈裟懸けに右の刃を振り抜き、その勢いを殺さずに回転しつつ左の刃を突き出した。
シスター・マリア=アスビィルは漆黒の衣服をはしたなくはためかせて、後退することで第一刃を、右に身体を沈めることで第二刃を避けた。