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どおおぉんッッ!!
荒れ地と化した町の中央に、シスター・マリア=アスビィルの生み出した紅黒い光が突き刺さった。幾度目になるか知れぬ破壊だった。建物は瓦礫と化し、瓦礫は粉塵と化し、粉塵は風に攫われて無と帰した。一帯には激しい土煙が立ち昇った。
びゅッ!
その土煙の中から、白き翼を携えた女児が飛び出して来た。向かう先は天空。人の子を大地に残したまま、彼女は紅き魔を睨め付けていた。
「む? 『魔の上に立つモノ』はどうした? 早々に戦いを投げ出すつもりかえ? トリニテイル術は人間と接触した状態の方が威力が上がるのではなかったかのぉ」
いっそ残念そうに、悪魔が言の葉を吐き出した。
精霊さまは翼をはためかせて空中で一回転してから、大きく舌打ちをした。
「てめー相手に全力なんて必要ねーっつー意思表示ですよ! わざわざ言わせんなです!」
ティアリスが叫びつつ、輝く腕を悪魔に向けて突き出した。
「第七精霊術『聖霊弾』!」
光の弾丸が数百程放たれ、悪魔へと迫った。
しかし、シスター・マリア=アスビィルがすぅっと腕を振ると、伴って黒い壁が形成され、その壁が光をあっさりと退けた。
「未熟とはいえ神の力が通じんというに、なぜ精霊如きの力が通じるなどと信じたのじゃ? あまりつまらぬことをせんでくれんかのぅ」
悪魔が冷めた表情を浮かべた。その細き瞳が紅々とした光を放った。
「興ざめじゃ」
ずんッ!
紅黒い光が生じてティアリスを襲った。
「くっ」
女児が呻いて白翼を操った。旋回して魔光を回避した。
しかし、悪魔は二撃、三撃と紅光を生み出し、執拗に責め立てた。
「ははっ。すばっしこいのぅ。まるで羽虫のようじゃ」
「うっせーですっ! 覚えとけですよ、このクソ悪魔!」
金切り声で暴言を飛ばしながら、ティアリスは悪魔の攻撃を危なげに避け続けた。
その一方で――
ごおおぉお!
空気を焼きながら、炎弾が悪魔へと向かった。
シスター・マリア=アスビィルは片手をティアリスへと向けたままで攻撃を継続し、もう片方の手を轟炎を迎え撃つために突き出した。
ヴンっ!
再び、黒き壁が出来上がった。
どんッ!
神の炎は魔へ至ることなく弾けた。伴い、爆発の煙が視界を覆った。
そこに――
「神刀ッッ!!」
光の刃を携えて、ルーヴァンスが突っ込んでいった。
人の子の生み出した刃は、精霊さまとの接触無く為した術ゆえ、威力は弱かった。しかし、シスター・マリア=アスビィルが防ぐ暇なく斬りつけることが出来れば、如何に力強き魔である『エグリグル』の悪魔とてダメージは避けられない。
タタッッ!!
ルーヴァンスは瞬く間すら与えずに紅へと至った。