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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
5.紅闇と白光の輪舞
140/186

5-15

 ヘリオスにはアルマースの声が聞こえていないようだった。状況から察するに、マルクァスや使用人たちについても同様だろう。

 そうであるにも関わらず、ミッシェルはセレネとアルマースの会話を耳にし、それどころか、悪魔を前々から識っていたかのように語った。

「……あの、ママ?」

「アルマース。アレはどなた?」

 ミッシェルは娘の問いかけに応えず、姿の見えない悪魔に尋ねた。

 アルマースは声だけで肩を竦めて視せた。

『久方ぶりだというに挨拶も無しか。まあ良いがな』

 一拍置いて幼き声は嗤った。

『奴はアスビィル。お前は一度約したことがあっただろう? 最もお前ら人間を悪んでいる魔だろうな』

 ミッシェルが嘆息した。

「やはり、彼女ですか。それじゃあ、ルーちゃんには荷が勝っているかもしれませんね」

『ルーヴァンスは神よりも魔に適しよう。アレでは実力の半分どころか一割も出せん。あのまま精霊と共に在れば――死ぬな』

 知己の語らいは絶望へと達した。

 セレネが息を呑んだ。

「そんな……!」

「どうしたんだ、セリィ。母さんもさっきから誰と話してるの?」

 顔色を悪くしている双子の姉を気遣いつつ、ヘリオスが首を傾げた。

 彼に応える者はなく、幾ばくかの時が流れた。

 沈黙を破ったのは、町の中央で響く爆音だった。遠目に建物が崩壊していく様が映った。

「ヴァン先生っ!」

 先ほどの悪魔の言葉と、響く爆発の音と。セレネの心に不安の影が差すのは当然だった。

 彼女は駆け出した。

「セリィ!」

 同じく一歩を踏み出したヘリオスだったが、その肩を押さえられて立ち止まった。彼が振り返ると、微笑む母の姿が在った。

「セレネにはアルマースがついています。大丈夫ですよ」

「あ、あるまーす? てか、あいつ独りだったよ?」

 ヘリオスは、走り去るセレネの姿とミッシェルの顔を交互に見つつ、戸惑った。どうするべきか大いに迷った。

「アルマースが居るのか?」

「正確には『居た』ですわ、あなた」

 横手からのマルクァスの問いに、ミッシェルが穏やかに応えた。

「セレネについてルーちゃんの元へ向かったようです。彼女ならセレネを守ってくれるでしょう。それよりも――」

「ルーヴァンスくんか。どうなんだ?」

 端的な質問だった。彼は事情をある程度察しているようだった。

「相手が悪いですね。アスビィルです」

「ティアリスさまと――イルハード神と共に在っても勝てないのか?」

 神の名を耳にして、ミッシェルの顔から笑みが消えた。言葉にも棘が生まれた。

「あなたもご存じの筈です。愚かな神の力など信じるに値しません。彼と共に在っては何者も絶望に囚われずには……いえ、私怨を内在した分析はやめましょう」

 ゆっくりとかぶりを振ってから、ミッシェルはひと息つき、硬かった語り口をゆるめた。

「客観的に見て、ルーちゃんと精霊の相性は最悪でしょう。彼女を相手取るには力が間違いなく不足しています」

「……いざという時は頼めるか?」

「……まあ、構いませんけれど」

 そこで会話は途切れた。

 夫婦の間で為された謎のやりとりを受け、息子は眉を潜めた。何が何だか全く分からなかった。

 不得要領のまま、ヘリオスは紅に染まった町を瞳に映して、他の町民同様、不安に立ち尽くした。


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