5-11
「ふむ。残念じゃのぅ。せっかくの戯れじゃからして、激しく華やかに楽しみたかったのじゃが…… ウチはもう泣きそうじゃ」
シスター・マリア=アスビィルは、弱々しい声を作って、泣き真似までもして見せた。紅魔の行動の全ては遊戯に過ぎなかった。
紅き上唇と下唇の隙間からぺろりと真っ赤な舌が見えた。
「ふふ。まあ……」
口元が綻んだ。
黒と紅の袖が持ち上がり、魔人形の白くたおやかな右腕が映えた。
白魚のような指の先に紅き光が宿った。
「こうして人界で脆弱な人間どもを相手にするくらいであれば、この程度の力でも充分なわけじゃがな! はははははッ!」
シスター・マリア=アスビィルは哄笑して、右手の五指をくるりと回した。
その何気ない動作に伴って、悪魔から破壊の力が解き放たれた。
紅黒く細い光がルーヴァンスたちへと向かい――
「神楯!」
さきほどよりも威力の高い攻撃であると見て取った二人は即座に、防護障壁を五重に渡って展開した。
ぱぁん!
一枚目の楯が弾けた。
ぱぱぁん!!
二枚目、三枚目と、光の壁は、紙が破けるように消え去っていった。
「ティア!!」
慌てた様子で、ルーヴァンスがティアリスを引き寄せて抱き止めた。彼はそのまま大きく横に跳んで、地面に伏した。
ぱぱぁん!!
その直後、紅黒い光が四つ目と五つ目の光をも消し去った。全ての楯を貫き後ろへと抜けていった。
ずぅん……!!
破壊の光が建物に着弾し、周りの数棟を巻き込んで倒壊した。重苦しい音が周辺に響き渡った。
ルーヴァンスは大地に横たわったままで唇を噛んだ。
(くっ。この威力は…… 戦時中に喚び出していた『エグリグル』の悪魔のさらに上を行く。いくら町全体を巻き込む血六芒星を用いたとて、ここまでの魔化術をパドルさんが為せたとは到底思えない)
喚び出されたアスビィル当人はパドル=マイクロトフの実力を酷評していた。ルーヴァンスが元サタニテイル術士としての感覚に頼って客観的に評価しても、パドルの力と招じている魔の気配の濃さが比例していないように感じられた。
「ふむ。これくらいが限界かの。三割――いや、せいぜい二割方といったところか…… やはり、あまり威力が出ないようじゃ。まあ、適当な術士をたぶらかして喚ばせたらこんなもんかのぅ」
白い指先で紅き唇をなぞりながら悪魔が独りごちた。
シスター・マリア=アスビィルのその言葉を耳にして、ルーヴァンスが納得したように頷いた。