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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
5.紅闇と白光の輪舞
135/186

5-10

「ふふふっ。そちらの人の子もおもしろいのぅ。アレなところも、サタニテイル術士としての資質も、興味深い。魔界で下々のものが噂しとる『魔の上に立つモノ』という二つ名の術士がお主じゃろう? お主に喚ばれたのなら、ウチももっと力を奮えただろうにのぅ」

 残念そうに、アスビィルが独りごちた。

 当然ながら、サタニテイル術士にも実力の違いはある。『エグリグル』の悪魔ほどのレベルからすると、パドル=マイクロトフはあまりよい術士ではなかった。少なくとも、ルーヴァンス=グレイよりは劣っていた。

 実力の伴わないパドルの力で顕れたシスター・マリア=アスビィルは、頬に手をあてがって嘆息しつつ、その片手間に紅闇を操った。ようやく危険を肌で感じた人々が逃げていく南へと軽く放った。

 ずんッ!

 背を向けて必死で駆けていた数名が、紅色の闇に呑まれて消えた。

「本来ならば、ああして戯れに数名を屠るのみにとどまらず、駆けている者どもを一掃できてよいのじゃ。それどころか、ウチならばお主らの住処と海をまとめて葬りされるところじゃぞ。まったく、情けない……」

 抱えた頭を左右に振ってから、アスビィルは満面の笑みを浮かべた。紅き瞳を細めて、同じく紅色の唇を持ち上げた。胸の前で左手を握り、右手をルーヴァンスへと伸ばした。

 神の力を纏う人の子に魔の力を魅せた。

「だからの。ウチと改めて約さぬか、『魔の上に立つモノ』よ。パドルの構築した血六芒星ブラッディ・ヘキサグラムは未だ健在じゃ。お主の実力でウチと再契約すれば強大な力を得られるぞ。あらゆる願いを叶えられよう。過ぎた時も、消えた命も、取り戻せる『かも』しれんぞ?」

 嘘だった。そのような理は決して有り得なかった。

 当の『魔の上に立つモノ』は、シスター・マリア=アスビィルを拒絶するようにかぶりを振った。

 ルーヴァンス=グレイはっていた。時も命も戻らない。絶望は覆らない。魔の示す希望が人を救うことは決して無い。彼は識り尽くしていた。ゆえに、苦笑と共に否定を口にした。

「お断りします。貴方と戯れる気はありません。……万が一、僕が再び魔と約することがあるとしても、貴方のような質の悪い二枚舌と組む気にはなれません」

 頑とした拒否を受けて、シスター・マリア=アスビィルが肩を落とした。

 紅の刺繍が映える黒き衣服がゆらりと風になびいた。紅き光を反射して輝く金色こんじきの髪の毛もまた、さらりと流れるように揺れた。


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