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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
5.紅闇と白光の輪舞
133/186

5-8

「よぉ。お初じゃの。お主らは如何にして死するのがお好みじゃ?」

「は?」

 しゅたっと手を上げた紅き魔を目にして、ルーヴァンスは間の抜けた声を上げた。いくら悪魔が相手とはいえ、いきなり死に方の希望を訊かれるとは思いも寄らなかった。戦時中に三名の『エグリグル』の悪魔と関わりを持った彼であっても、目の前に顕れたモノのようなタイプには出逢ったことがなかった。

「ああ、そうじゃ。名乗るのを忘れておった。ウチの名はアスビィルじゃ」

 紅眼の女性を象ったモノはそう名乗った。見た目がシスター・マリアのそれだったとしても、やはり希望は欠片として無かった。シスター・マリアはもう四界のどこにも存在していなかった。

 シスター・マリア=アスビィルは小首を傾げて、申し訳なさそうに小さく息を吐いた。

「ふむ。ウチはせっかちでの。尋ねておいてすまんが、こちらで決めた」

 紅魔が微笑んだ。

「切り刻まれて死ぬがよい」

 シスター姿の悪魔が物騒な言葉を口にした直後、一帯を風の刃が薙ぎ払った。辛うじて残っていた広間を緑で彩る木々が切り倒され、いまだに遠くから恐々と見物していた人間たちもまた、何が起きたか気がつかぬうちに切り刻まれ、ただの肉片と化した。

 しかし、ルーヴァンスとティアリスの身に刃が届くことはなかった。彼らは直前に神の力を呼び込み、光の楯を形成していた。

「……くっ」

 ぐちゃりと崩れ落ちた肉塊から漂ってくる鉄の臭いが、ルーヴァンスの鼻をついた。彼は小さく呻いて、悔しそうに顔を顰めた。

 一方で、シスター・マリア=アスビィルは恍惚とした表情を浮かべ、口の端を持ち上げた。

「ふふ。人の血はいい匂いがするのぅ。ほれ、お主らも遠慮なく臓物をぶちまけるがよいぞ。もっとウチに清香を嗅がせておくれ」

 伸ばされた腕からひと筋の紅線が生じた。

 光とも闇ともつかぬ線は瞬時にルーヴァンスとティアリスの元へと至ったが、小手調べに過ぎなかったのだろう、ティアリスの腕の一振りで霧散した。

 魔の者は別段反応を示すでもなく、くつくつと声を立てて嗤った。可笑しそうに身体を折り曲げた。

「よいのぅ。魔界で悪魔を殺しても楽しいことは楽しいのじゃが、やはり、人界で人を、というのがよい。ウチらに悪を押しつけるにっくき者どもを自由に殺せる。そういう状況こそが、最高のスパイスなのだろうのぅ」

 顔中に愉悦を広げ、彼女、ひょっとすれば彼が呟いた。

 その後、シスター・マリア=アスビィルはティアリスを注視して眉を潜めた。

「ん? そちらの子供は……精霊かえ? お主たちは、ウチらが人をたぶらかすと直ぐに顕れるな。イルハードや精霊王も、実に過保護よなぁ」

 呆れた様子で、悪魔が嗤った。

 精霊さまもまた嗤った。

「ふんっ。そこは意見が合いやがるですね。正直に言いやがれば、クソ虫のために人界くんだりまで来んのは気にくわねーですし、クソ神もうちんとこのボケ王も死んじまえと、常々思ってるです」

 イライラした表情を隠すこともなく、ティアリスが応えた。適当に話を合わせているわけではなく、本心からの言葉のようだった。

 紅き魔――アスビィルが一層おかしそうに嗤った。


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