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「……ちぃ! ヴァン、もう一発です! もっとでけーのいくですよ!」
「はい!」
ちょん。
ルーヴァンスとティアリスは先ほどよりもひと指だけ増やして、人差し指と中指で触れ合った。そうして再び、神の力を人界へと引き込んだ。焔がどんどんと大きくなっていき、地上に太陽の如き巨大な炎弾が生じた。
「もっとです!」
天上の血六芒星をちらりと瞳に映してから、ティアリスが苛立たしげに叫んだ。
高く掲げた両腕で神の焔を支えていた人の子は、精霊さまの指示に瞠目して反駁を試みた。
「し、しかしティア! これだけの力、町への被害が大きくなりすぎます! 近辺に人影が無いとはいえ――」
「うるせーですよ! まだまだ足りねーくらい……」
ぱあぁあ!
叱咤を遮って、紅き光が辺りを満たした。ついに真円が六つの角を囲い、血六芒星が完成し、すぅと紅光が地上へと降りてきた。
夕暮れのような紅に町が覆われた。
「ッ! ヴァン! いいからもうぶっ放せです!」
「――神炎っ!!」
どおおおおおおおおおおおおぉおんッ!
これまでとは比べものにならない轟音が町を駆け抜けた。
焔が夜の闇を駆逐するように、紅で染まった尖塔と十字を飲み込んだ。ガラガラと瓦礫が大地に墜ちて、大聖堂が倒壊を始めた。砕片や土塊が街路を埋め尽くし、墓地は平地を通り越して窪地と成った。
「……ちぃ!」
精霊さまの舌打ちが響いた。
彼女の視線の先では、唯一つの十字架が窪んだ大地に聳えていた。
天から降りた光が幾筋もの帯へと転じ、ただ一つ残った墓標に巻き付いた。そのまま、すぅと吸い込まれていった。ともない、墓標が紅く、強く、輝いた。
毒々しい光の中、黒い影が姿を見せた。墓標の根元から華奢な人の子の身体がゆっくりと起き上がった。
紅き魔が人界に降り立った。




