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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
1.人と悪魔と精霊と
13/186

1-12

「何を言っているんだ?」

 不得要領なルーヴァンスの言葉に、ブルタスが眉をひそめた。

 その時――

 ヴン。

 闇が空間に浮かび上がった。

 濃い黒がどんどんと広がっていく。直ぐに人を飲み込まんばかりの大きさに成る。

「これは……何だ?」

「――ッ!」

 とつじょ出現した黒き空間を――闇を、ブルタスはぼうっと見つめていた。

 そのような彼に、ルーヴァンスが急ぎ体当たりをした。

 二人は共に、地面に転がった。

「ぐ、グレイくん。何を……」

 どんッ!

 ブルタスの文句を遮って、炸裂音が響いた。人の子が佇んでいた大地に、巨大な穴が穿たれた。

 そして、闇よりも深い闇が生じる。

『……ふん。紛らわしいな。何やら術士の気配を感じ、何か用向きかと来てみれば、全く別の術士か』

 暗い闇の奥から、漆黒の身体が出でた。人によく似た姿をしているが、その身の丈は人の二倍以上である。眼球と口内が血のように赤々としている。

「あ、悪魔か!? ちぃ! 第三小隊、構え!」

 顕れた闇の者に気圧されることなく、ブルタスがルーヴァンスをつれて後退し、叫んだ。

 警邏隊員たちは伝播していた動揺を抑えて、命に従う。背中に備えていた弓矢を構える。

「てえッ!」

 びゅびゅびゅ!

 一斉に放たれた矢が悪魔に迫る。

 しかし、黒き者は平然と佇んでいた。

 ぱァんっ!

 鋭い物音に伴って、矢が反射する。

「ぐっ!」

「あぁ!」

 方々から悲鳴が漏れた。

 警邏隊員たちが矢を身に受けてうずくまる。頭蓋や胸に一撃を受けて絶命してしまった者もいる。

『ふん。まあいい。ついでだ。遊ばせてもらおう』

 ひゅん!

 空気を切り裂くように、悪魔が凄まじい速度で飛んだ。

「ぎゃああああぁあ!」

「がッ! た、たいちょ……」

 ざしゅッ! ざしゅッ!

 集っていた警邏隊員たちから悲鳴が轟いた。

 闇は、彼らの間を自由に飛び回り、気まぐれに、長く鋭い爪で切り裂いていく。かの一撃は、浅くない傷を人の肉体に刻む。

 人々は緩慢と死出の旅路へ向かう。

「第一小隊前に! 第二小隊は負傷者を救助しろ!」

 隊長から新たな命が下された。

 しかし、場が混乱しているせいで、有効な行動を取れる者が少ない。

「しっかりしろ! ここでそいつを撃退すれば全てが終わるんだぞ!」

 人が混乱の中で希望を叫ぶ。

 しかし――

『……ふんッ』

 悪魔は人の微かな希みを嘲笑った。


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