5-4
突然、町に訪れた異変を受け、周辺に住まう者たちは自主的に大聖堂へと向かっていた。かの建物は大きく丈夫で、有事の際には避難場所となっていた。
今も町中を紅い光が包むなか、人々は街路を早足で急いでいた。
何が起ころうとしているのかなど、誰にも分かっていなかった。ただ、漠然とした不安が胸にあり、彼らは先を急いだ。そして、彼らが急いだ先に、大聖堂があり、その裏手に、墓地があった。
空には紅で彩られた六芒星が描かれ、今や、その周りを真円が囲おうとしていた。
円は図形の六つの頂点のうち五つ目を過ぎ、八割方は完成していた。
それが完成に近づくにつれ、大聖堂が――いや、正確には大聖堂の裏手の墓地が、紅く、強く、禍々しく、光り輝いていった。
「……な、何だ、あれ?」
いよいよおかしいと気づいた人々は、ようやく足を止めた。しかし、逃げ出すまでには至らなかった。この期に及んでまだ、全てが崩れることはないと、日常は壊れないと、根拠のない確信の上に危うく立とうとしていた。
紅い光は墓地の一画に集った。激しく光り輝く様子は不気味ではあったが、どこか幻想的で魅力的でもあった。
「あのお墓は、シスター・マリアの……?」
誰かが呟いたその時――
どおおおおぉおんッ!
上空で何かがピカッと光り、その直後に大地が爆音を上げて粉砕した。墓標が崩れた。
そこにひゅうぅうっと風を切って某かが舞い降りて来た。
しゅたっ。
ティアリスと、彼女に手を引かれたルーヴァンスであった。
地に足をつき背の白翼が消えると、ティアリスはばっと乱暴に、人の子と繋いでいた手を放した。
「これで終わってくれりゃー楽なんですけどね」
「いや、というか、ティア。被害が……」
放れてしまった手を残念そうに見てから、ルーヴァンスがため息交じりに言った。
彼の視線の先では、大聖堂が一部倒壊し、墓地は大部分が粉砕されている。周囲にいた人間もまた、倒れ伏してうめき声を上げている。幸い死者はいないようであるが、少々やり過ぎている感は否めなかった。
人々はようやく事態が緊迫していることを実感したのか、傷ついた者に肩を貸しながら、大聖堂から離れていった。皆、可能な限り素早く逃げ去った。
異変に気づいた時点で行動に移っていれば、もっと被害が少なかったことだろう。
人の子の背中を見送り、精霊さまが嘆息した。その視線は明らかに、痛い目を見て初めて逃げるという選択肢に至ったバカ共を嘲っていた。