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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
5.紅闇と白光の輪舞
128/186

5-3

 ルーヴァンスとティアリスのいっそ冷静にも見える様に、床に膝をついていたマルクァス=アントニウス卿が小さく息を吐いた。ゆっくりと腰を上げ、床に転がる紅き肉塊に悲しげな瞳を向けてから、視線を転じて神の代行者とでも言うべき者を見つめた。

「ティアリスさま。どうか、ルーヴァンスくんをお連れください」

「うるせーですよ、クソ虫。命令すんなです」

 常識的なマルクァスの言葉はティアリスに一蹴されてしまった。

 大聖堂に顕れようとしているモノが、ティアリスだけの手に負えるのかどうか、人の子には分からなかった。しかし、貴重な戦力に違いないルーヴァンスを連れずに先行するのが正しい判断とは、彼には思えなかった。

「私には正確なところがわかっておりません。目の前の光景――パドル神父が、イルハード正教会の教皇さまに選ばれた者が、神を裏切り、自ら死に行くその光景だけで、私ごときは心が崩れてしまいそうになる」

 イルハード正教会は悪魔を否定し自殺もまた許容していなかった。パドル=マイクロトフはことごとく信仰を裏切ってみせた。

 敬虔な信徒たるマルクァスにとってみれば、それはとても許せることではなかった。

「しかし今は、安穏と絶望に呆けている場合でも、個人的な好みに起因して最善の一手を放棄している場合でも無いのではありませんか?」

 ご尤もな意見であった。

 人の子の言葉が納得に足る以上、精霊さまも今度ばかりは一蹴しかねた。

「……まあ、そうですね。ついでにいやー、のんきに話してる場合でもねーわけですが」

「なればこそ、やはりルーヴァンスくんを連れていくべきだろう。貴女が彼を嫌う気持ちはわかる。確かにとてつもなく気持ちが悪い」

 遠慮の無い御言葉だった。しかし、まごうこと無き事実だった。

 誰もが認めること故に訂正の言葉が入ることも無かった。ルーヴァンス=グレイは気持ちが悪いという前提の元で会話が進んだ。

「彼の奇行は私共でもご免被るところなのだが、今は非常事態だ。どうか我慢してはくれまいか」

「……………」

 マルクァスが深く頭を下げると、ティアリスは沈黙と共に首を振った。

 それは否定ではなく諦観だった。

「ちっ。しっかたねーですね。ヴァン。手を出すです」

「うおおおおぉお! ラブ飛行ううぅう!」

 びくっ。

 しかめっ面で譲歩したティアリスが、せっかく出した手を引っ込めた。

 変態は女児の様子に構わず、卿の御前に跪いた。床に額を擦り付けて懸命に感謝した。

「指令、ありがとうございます! ありがとうございますぅ! 僕は貴方に一生ついていきますから! 女児とお手々を繋いで愛の進撃ぃ! いやっほおおおぉお!」

 大げさすぎる反応だった。

 床を嘗める勢いで頭を下げるさまもまた、とてつもなく気持ちが悪かった。どうしようもなく気持ちが悪かった。

「……やっぱ、独りで地面を這いつくばって来やがって欲しいです」

 ドン引きした精霊さまが独白した。


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