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「なのになぜ今になって…… どうして貴方は今頃……」
絶望の中で限定的にもたらされた救いは、彼にとって決して救いとはなり得ず、更なる闇を容赦なく与えた。人は闇に侵蝕され尽くした。
パドルは肩を震わせて、佇んでいた。
大聖堂では孤児や捨て子を何人も預かって育てていた。パドルが八歳の時に一人の赤子がその中に加わった。赤子はマリアと名付けられ、長じてからはシスターとして神に仕えるようになった。
マリアはパドルを兄のように慕い、パドルはマリアを妹のように慈しんだ。
けれど、マリアは殺された。無残な最期を迎えた。
だからこそ、兄は哀しみを怒りへと転じた。闇を迎えた。そして願った。罪人よ滅べ、と。
その結果、彼自身もまた幾つもの罪を重ねた。
滅ぶべき罪人と成った。
「あははははははははははははははははッッ!!」
罪人が高く高く嗤った。
彼にはもう一つの願いが有った。罪人の滅亡などは副次的な願いでしか無かった。
怒りゆえに滅びを願い、悲哀ゆえに救いを願った。
人の求むる滅びも救いも、魔が請け負った。
神はいずれにも応えなかった。
そうであったのに――
「なぜなのです! イルハードよっ!」
人の子は大音声で叫び、すぅと持ち上げた右腕に力を込めた。腕に濃い闇が収束し――
ぶしゅっ!
血煙が大広間を染めた。
パドル=マイクロトフの四肢が千切れた。
そして、最後に――
「……むっつ……め……」
ぽとり。
掠れた言葉を最期に残して赤毛の首が墜ちた。傷口からは罪深き血が止め処なく流れ出でた。六つ目の紅き頂点がリストールの町に刻まれた。
遂に、愚かな願いを叶える紅き血の六芒星が完成した。