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「貴方の噂は、私を利用している方――エグリグルの悪魔から聞き及んでいます。史上稀に見る最上のサタニテイル術士であった、と。その才覚は、精霊と――イルハード神と共に在っても発揮されているご様子。私は屹度、道半ばで捕らえられることでしょう」
先の戦闘でもルーヴァンスは、充分すぎるほどの力を魅せていた。ティアリスが近くに居ないゆえにその力が大きく損なわれるのではないか、などという甘い期待は命取りとなるに違いなかった。
魔を纏う神父パドル=マイクロトフは、戦うことを諦めて楽になったのか、微笑みすら浮かべていた。
「グレイさん」
「何ですか?」
イルハード正教会の神父は、寂しそうに微笑んだ。
その様子はまるで、見捨てられた子犬のようであった。
「彼女は私などよりも、そしてきっと、この世の誰よりも――我らが父を信じていた。イルハード神を愛していた。そしてそれはきっと、悲劇だった」
彼の言葉を正確に理解できる者など、この場には居ない。それどころかきっと、この世のどこにも居はしない。それは彼だけのものであり、生まれた想いは彼らだけのものであり、彼らの間に紡がれた絆もまた、彼らにしか感じ得ないものであったのだから。
そしてそれゆえに、彼は願った。
願いは彼らに――悪魔に聞き入れられてしまった。パドルが、そして、彼の大切な者が信じ敬ったイルハードではなく、闇の存在に魅入られてしまった。
「信頼を、愛を、我らが父は裏切られた」
きっと、それだけであれば、人は絶望しながらもすっぱりと諦められたのだ。神など居ないのだと諦めつつも、折り合いを付けて生きられたのだ。魔に魅入られようと、罪を犯そうと、何時の日か人界という悲劇を許すことが出来たのだ。