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シュッ! がッ! ビシっ! ビシっ!
所々が瓦解したアントニウス邸の大広間にて、魔の者より黒き弾丸が数発放たれたが、その全てが神の力を借り受けた者の手に納まっている光の刃によって弾かれ消えた。
魔の波は直ぐさま狙いを変えて、命を奪うべき罪人を飲み込もうとするが――
「神楯!」
イルハード神の力が、人界に降臨した精霊さまを経由して人へともたらされた。光の楯が術士の視線の先に出現した。光は意思を持つように肥大化して魔を退けた。
光が闇に勝っていた。
闇は侵攻を潜めた。
ルーヴァンス=グレイは両手に光の剣を構えて、パドル=マイクロトフを牽制していた。
対して、パドル神父は手中の闇をすぅと消し、小さく苦笑した。
「……やはり敵いませんか。私は祈ることしか知らぬものでして、力有る貴方にこうして阻まれてしまえば、目的を達するのはとても難しいでしょう」
「ご冗談を。より強力なサタニテイル術を使えばよいでしょう? 出来ぬわけではないはずです」
そうすることで彼は昨夕、海上の精霊と人の子を襲った。
パドルは悪魔と寸時同化し、強力な魔の一撃を放っていた。その時の闇色の光線の威力は、昨日の夕刻に町の上空を飛び回ったモノの力を優に超えていた
それも当然だった。
ルーヴァンスとティアリスのトリニテイル術にやぶれたモノは、サタニテイル術の魔化術を施されていた。魔化術は、喚び出した悪魔の力を人間に無理やり注ぎ込むためか、悪魔の意思こそが前面に出る。しかし、悪魔が持つ本来の力を全て引き出せないという欠点があった。
一方で、サタニテイル術士自身が悪魔の力を取り込む場合、それは同化術と呼ばれる。同化術は人の意思をもって為されており、主が人で従が悪魔という、四界の理に即した本来あるべき主従関係を踏襲している。悪魔の持つ力を人が完全に引き出すことができるのだった。人間への負担が大きく、命が削られることも多々あるが、か弱き人が大きな力を得られる唯一といってもいい方法だった。
そのような強き力を放てるに違いないパドルは、しかし、ふるふると首を振って、苦笑した。
「勝機はないでしょう」
肩を竦めて、パドル神父は無信心者ルーヴァンスへと視線を向けた。