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セメント・オブ・トリニティ  作者: makerSat
4.魔に惑いし者の盲進
122/186

4-41

「はああぁあ! アリスちゃん、死んでくださいっ!」

 深き闇を纏ったセレネがティアリスへと迫った。黒刃が大気を切り裂いて侵攻し光を滅さんとした。

 白翼を背負った女児は、迫り来る魔槍を冷静に見つめた。

(ふぅん…… セレネはトリニテイル術士よりもサタニテイル術士の方が向いているようですね)

 精霊さまが軽く感心してみせてから妖しく笑った。そして、パチンと指を鳴らした。

「第十九精霊術『天扉ゲート』」

 ぴかッ!

 天上に眩い光が満ち満ちた。大きな扉が生じてゆっくりと開き始めた。

「今さら何をしようと――」

 ティアリスの動向には構わず、セレネが空を駆け上がった。闇が光を貫こうと迫った。

「アリスちゃんが消えれば、ヴァン先生はきっとボクを!」

「ったく」

 人の子の大音声を耳に入れて、精霊さまが嘆息した。闇と共に翔る少女を嘲笑った。

「馬鹿なクソ虫ですね。人界がそんな単純かっつー話ですよ」

 人界の想いは御しがたい。策を弄したとして、どれだけの気持ちが思いのままに動くか、精霊にも悪魔にも、それどころか神にも判ぜられるものではない。

 年若いながらも、人の身でそれを知らぬセレネではなかった。

 それでも、もしかしたらと、奇跡というものがあるならばと、彼女は力を与えてくれる闇と共に邁進し、光の御子を目指した。

「……ふぅ。世話のかかるガキですね」

 精霊さまがそう呟いた、その時――

『なっ!』

 双子が揃って声を上げた。

 姉の生み出した闇の刃が、天上の光の扉から出でた弟の喉元に突きつけられていた。

 家族を想う気持ちに、大切な者に生きていて欲しいという願いのままに、黒き槍の進撃が寸の間、止まった。セレネが身に纏う闇の気配すら希薄になった。

 その隙をついて――

「第十五精霊術『蓬雷電』!」

「きゃああああああぁああ!」

 精霊さまの生み出した聖なる雷撃がセレネの身体を駆け抜けた。少女はふっと意識を失い、そのまま地上へと落ちていった。

「セリィ!」

「心配すんなです、クソガキ」

 びゅッ!

 ティアリスが白き翼をはためかせ、墜ちていく人の子を急速度で追った。

 そして、地にぶつかる直前でパシッと人の子の手を取った。

「まったく……」

 肩を竦めて息をつき、精霊さまが人の子を嘲った。

「本当に、世話のかかるクソ虫ですよ」

 ティアリスは、地上すれすれの高さに浮かび、左手でセレネを支え、右手でヘリオスという名の楯を、いわゆる人質を引き連れていた。しかし、右手のそれは、最早必要なものではない。重くて邪魔なだけの粗大ゴミだった。

 ぽいっ。

「ぐへ」

 人の子が地に落ちて、うめき声を上げた。

 精霊さまの御手が振り払われて、そのまま、重力に従順に、ヘリオスは顔から墜ちた。

 死を迎えるわけでも傷を負うわけでもなかったけれど、だからといって、闇を退けるための楯にされ、用済みとばかりに放り出され、不当な扱いを何度も受けるのは気持ちのいいものではなかった。一般的には正しき存在のはずの精霊さま――神の代行者にそのような扱いを受けたのならば尚更だった。

「オレ、正しいことって何なのか、もうわかんないや……」

 顔面を押さえて呻いているヘリオスを、ティアリスが存分に見下した。

「ワタシの役に立てて光栄でしょう? ガキ」

 精霊さまがにっこりと微笑むさまは、ヘリオスにとって悪魔の如きであった。


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