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「ていっ! やあっ!」
ヘリオスがへっぴり腰で光の刃を振るったが、その斬撃がセレネへと届くことはなかった。
弱冠十四歳の彼の剣の腕が未熟なのは元より、敵対している相手が双子の姉であるという点も、刃を思い切り振り抜けない一因であった。
ひゅんっ。ひゅんっ。
ヘリオスが当たらない斬撃を二度、三度とくりだし、頼りなさにて満ち満ちた光の軌跡を生み出した。横薙ぎの一撃も、袈裟懸けの一撃も、セレネが足捌きのみで避けきったため、彼女に届くことは無かった。
魔に憑かれた者は、防衛から転じて攻撃に出た。腕に生み出した闇の剣を振るって牽制し、続けて、光の者が逃れた先の足元に魔弾を放った。
双子の弟はしゃにむに跳んで闇の光弾を躱した。そのまま駆け出して、鈍重な動きで部屋の外へ逃げ出した。セレネとの間に壁を挟んでひと息ついてから、彼はぐいっと額の汗を拭った。
「さ、さすがセリィだ。手強いよ」
「うっせーです、ガキ。てめーが弱いんですよ、ガキ。役に立たねークソカス野郎ですね、ガキ。とっとと死んでわびやがれなのです、ガキ」
精霊さまよりもたらされた悪口のオンパレードに、ヘリオスが肩を落とした。
「……い、言い過ぎじゃない?」
「気のせいですよ、クソガキ」
どぉんッ!
益のない口げんか――というよりも、一方的な言葉の暴力を遮って、爆音が響いた。
セレネの部屋の壁が吹き飛んで、土煙が上がった。
飛び交う木片から顔をかばいつつ、ティアが横に跳んだ。そのまま、ヘリオスの横っ面に跳び蹴りを食らわした。
ひゅっ!
床に口づけをする人の子の直ぐ隣を、鋭い音の波を伴って魔の風が吹き抜けた。
魔風が廊下を駆け抜けて行った。
ばぁんッ!
鎧戸が粉砕し、破片が内外へと散乱した。
「うわっ! ……ちょ、ちょっとは手加減しろ、セリィ! 自分んちだろ!」
光り輝く立派な武具を手にしながら逃げ惑いつつ、ヘリオスが叫んだ。
折角手にしている神の楯を有効活用しないヘリオスに冷たい視線を向けてから、ティアリスは精霊の力を解放した。煌々壁という光の壁を生み出して、次々と襲い来る闇の弾丸や魔風を防いだ。
そうしながら、精霊さまは人の子の不満に応えた。
「たぶん、手加減はしていやがりますよ。中途半端とはいえサタニテイル術の同化術ですから、その気になりゃーこの屋敷の一つや二つ、楽に吹っ飛ばせるに違いねーです。にもかかわらず、ワタシの煌々壁で防げるレベルの攻撃しかしやがらないんですからね」